第5章「心の決断」①

日が沈み、拓磨と沙音は夜空の下で歩き続けていた。二人の足音が静かな街の中で響き、どこか心地よい空気が流れている。沙音は少し照れくさそうに歩きながらも、その隣にいる拓磨を見て、ふと心の中で何かを感じ始めていた。


「拓磨さん、今日のディナー、本当にありがとうございました。」沙音が少し照れくさそうに言う。


拓磨は嬉しそうに笑って、「こちらこそ、楽しませてもらったよ。君が提案してくれたレストラン、すごく良かった。料理も美味しかったし、何より一緒に食べるともっと美味しく感じるよね。」と言う。


その言葉に、沙音は少し心を温かく感じる。しかし、同時に心の中で迷いが広がるのを感じた。拓磨の優しさや、彼が見せる自然な微笑みが、自分の心をどんどん引き寄せていることに気づいていた。でも、同時にその気持ちが怖いとも感じていた。


「拓磨さんって、いつも本当に素直ですよね。」沙音は少し考えながら言う。


拓磨は少し驚き、「素直?」と首をかしげる。


「うん。拓磨さんは、何もかもそのまま言ってくれるから、すごく心地よいんです。」沙音は少し頬を赤らめるが、その言葉を素直に口に出してしまった。


拓磨はその言葉を聞き、少し照れくさい笑顔を見せる。「そう言われると、照れるな。でも、君に素直でいたいって思ってるからさ。」


沙音はその言葉に胸が高鳴るのを感じた。拓磨の素直さや優しさは、自分が求めていたものだった。しかし、その素直な気持ちが自分の中でどう影響するのか、沙音はまだ答えを出せないでいた。


「拓磨さん、私…。」沙音は言葉を止める。


拓磨は少し歩調を合わせて、ゆっくりと歩きながら、「うん?どうした?」と尋ねる。


「私、実は…まだ自分の気持ちがよく分からないんです。」沙音はためらいながらも、口を開く。「拓磨さんに対して、どうしても素直になれないことがあるんです。優しすぎて、頼りすぎるのが怖い。だって、拓磨さんがどんどん私に優しくしてくれるのに、それに応えられる自信がないんです。」


拓磨は沙音をじっと見つめ、その目を外さずに言った。「沙音、君がどう感じているのかは、ちゃんと分かっているつもりだよ。でも、君が僕に頼りすぎることなんてないよ。僕はただ、君に素直な自分を見せて欲しいだけなんだ。」


その言葉に、沙音は少し驚いた顔をして立ち止まる。拓磨は立ち止まった沙音に優しく微笑みかける。「僕は君がどう思っているかに関わらず、君を大切にしたいと思っているよ。それだけは変わらないから。」


沙音はその言葉に少しだけ胸が痛くなる。拓磨の真摯な眼差しに、自分の心の中の迷いが浮き彫りになった。心が乱れるその瞬間、沙音はふと拓磨に向かって歩き出す。


「拓磨さん…。」沙音は彼に近づきながら、真剣な表情で言った。「私も、あなたに素直になりたいと思っています。」


拓磨は沙音の言葉をじっと聞き、静かに頷く。「素直でいてくれるだけで、十分だよ。」


その瞬間、沙音は拓磨の存在が、思った以上に大きなものだと感じる。拓磨と共に歩む未来が少しずつ見えてきたような気がした。

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