第3章「未来に響く二人の声」①
あれから数週間が経ち、拓磨と沙音はお互いの関係を少しずつ深めていった。毎回のカフェでの出会いが、沙音にとって楽しみの一つになり、彼女は不安と期待の入り混じった気持ちを抱えながら、拓磨との時間を心待ちにしていた。
その日も、いつものカフェで待ち合わせ。沙音は少しだけお洒落をして、少し緊張した面持ちで席に着く。拓磨が現れると、いつものように自然な笑顔を見せ、沙音に向かって手を振った。
「お疲れ様!今日も素敵だね。」拓磨がそう言いながら、沙音の前に座る。
「そんなに急に言わないでくださいよ…恥ずかしいです。」沙音は顔を赤らめ、少しだけ目を逸らす。
拓磨はそれを見て楽しそうに笑う。「いや、本当に素敵だよ。どうして恥ずかしがるんだろう?」
沙音は苦笑いを浮かべる。「だって、急に褒められると、ちょっと照れちゃうんですよ。」
拓磨はいたずらっぽく目を細め、「じゃあ、これから毎回褒めるね。」と言い、再び笑う。その言葉に、沙音は内心でちょっと嬉しさを感じるが、それを表に出さないように気をつけた。
「本当に、拓磨さんって、なんでも簡単に言いますよね。」沙音は少し腕を組んで不満げに言うが、口元には微笑みが浮かんでいる。
拓磨は軽く肩をすくめ、「だって、君が素敵だからさ。どうしても言いたくなっちゃうんだよ。」と、少し照れくさそうに言う。
沙音はその言葉に、一瞬だけ心が温かくなったが、すぐに冷静を装い、「あ、ありがとうございます。」と短く返す。自分の心が乱されるのを感じて、少しだけ焦る自分がいた。
拓磨は沙音の少し硬くなった様子に気づき、「あ、ごめん、ちょっと言い過ぎたかな。」と、すぐに誤解を解こうとする。
「いえ、そんなことないです。」沙音は少しだけ顔を背けるが、心の中で拓磨が言った言葉が何度も頭の中で反響していた。
「沙音、最近どう?仕事の調子は?」拓磨が話題を変えると、沙音はほっとしたように息を吐き、話し始める。
「まあ、順調に進んではいるんですけど…。でも、まだ成果が目に見えて現れないと、どうしても焦ってしまいます。」沙音は自分の悩みを正直に打ち明ける。
拓磨は少し考えてから、穏やかな声で言う。「それって、かなり自分に厳しくなっちゃうよね。焦るのもわかるけど、たまには自分を褒めることも大事だよ。」
沙音は少し驚いた顔をする。「自分を褒める?」
「そう。君は本当に頑張ってるんだから、少しぐらい自分に『よくやった』って言ってあげてもいいんじゃないかな。」拓磨はその言葉を沙音に向けて、優しく笑った。
沙音はその言葉に、自分の中で何かが変わったような気がした。拓磨の優しさに触れるたびに、沙音は少しずつ彼に引かれていく自分を感じていた。だが、それと同時に、彼の優しさに頼りすぎてしまうことが怖かった。
「拓磨さんって、本当に優しいですね。」沙音は静かに言う。
拓磨は照れくさそうに頭をかきながら言う。「まあ、僕はただ、君がもっと自信を持ってほしいだけだよ。だって、君は本当に頑張ってるんだから。」
その言葉に、沙音は少し胸が熱くなるのを感じたが、それを素直に受け入れることができなかった。心の中で、拓磨が自分を気にかけてくれることに、嬉しさと同時に戸惑いもあった。
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