それから数日後、拓磨は再びカフェに足を運ぶ。今日は沙音と会う約束をしていた。前回、傘を交換した後に「今度、また会おう」と言った拓磨の言葉に、沙音はどこか心を温かく感じ、少しだけ期待していた。

カフェに入ると、沙音はすでに席に座っている。普段よりも少しお洒落な服装をしていて、その姿に拓磨は思わず目を奪われた。

「やっぱり、今日も素敵だね。」拓磨が無邪気に言うと、沙音は顔を赤らめながら少し照れくさそうに笑う。

「そんな…急に言われると、恥ずかしいです。」

拓磨はその反応に少し嬉しさを感じつつ、軽く笑った。「だって、素敵だから。恥ずかしがらなくてもいいよ。」

沙音は照れながらも、拓磨の言葉がなんだか嬉しいと思っている自分に気づき、少しだけ気恥ずかしさがこみ上げる。

「今日は何を話そうか？」拓磨が言うと、沙音は少し考え込み、ふと自分の心にある悩みを話すことに決めた。

「実は…最近、すごく焦っているんです。」沙音がぽつりとつぶやく。

拓磨は少し驚いた顔をしながらも、優しく耳を傾ける。「焦ってる？どうして？」

沙音は少し俯きながら続ける。「私は会計士として働いていて、周りの同僚たちがどんどん昇進していく中で、私だけが何も進展していないような気がして…。他の人と比べて、自分のペースが遅すぎるんじゃないかって。」

拓磨はその言葉を聞きながら、自分が感じたことを素直に話した。「分かるよ。僕も、今まで仕事で色々な試練を乗り越えてきたけど、どうしても焦ってしまう時ってあるよね。でも、焦る気持ちも大切だけど、無理に結果を追い求めるよりは、自分のペースで少しずつ前に進んでいく方が大切だと思うよ。」

沙音はその言葉に耳を傾け、心の中で何かが少し軽くなるのを感じた。しかし、すぐに反論が湧いてきた。

「でも、私は…すぐに成果を出さないと、意味がないって思ってしまうんです。」沙音は少し眉をひそめる。

拓磨はその言葉を聞いて、少し真剣な表情で言った。「成果を急ぐあまり、無理して自分を追い込むのは逆効果だよ。だって、君はきっと、努力していることがちゃんと成果につながると思うから。」

その言葉を聞いて、沙音は少し安心したが、まだどこか納得しきれない部分があった。しかし、その時、拓磨がさらりと次の言葉を口にした。

「でも、君って本当にすごいよ。短期間で結果を出そうとする姿勢が、僕は素晴らしいと思う。だからこそ、少し肩の力を抜いて、楽しむことも大事だよ。」

沙音はその言葉に、思わず心が温かくなるのを感じた。拓磨は本当に、誰にでも優しく接して、相手の気持ちを理解しようとする人物だった。そのことに、沙音はますます惹かれつつあった。

「ありがとう、拓磨さん。」沙音は静かに言った。

拓磨はその言葉に、少し照れくさそうに笑う。「いや、気にしないで。友達だからさ。」

その一言に、沙音の胸の中で何かがこみ上げてきた。拓磨が「友達」と言ってくれたことに、少しだけ心が温かくなり、同時に少し寂しさも感じていた。