第2話

その日を境に、美咲と優恵は徐々に親しくなっていった。最初は、勉強会という名のもとに2人は集まっていたが、いつの間にかその時間はお菓子を囲んだただのパーティーに変わっていた。


そんなある日のこと、

午後の講義が終わった後、二人は大学のキャンパス内にあるカフェテラスに腰を下ろしていた。

このカフェは、周囲のざわめきなどがあまり聞こえず落ち着いた空間で、そういうところを2人は気に入っていた。


「優恵さんって、いつも本読んでるけど、どんなのが好きなの?」


美咲が、何気なく尋ねた。図書館でよく勉強している2人にとってその質問は何げに会話に出るものの1つである。

優恵はその問いかけに少し驚いた表情を浮かべ、瞬間的に目を細める。けれど、すぐにその顔を柔らかくして、ゆっくりと言葉を選ぶように答えた。


「うぅん、、、、そうね、、、、私はファンタジー系の小説が好きよ。特に、登場人物の心情が丁寧に描かれている作品が好きだわ、心が引き込まれてついつい楽しくなるから」


優恵は言葉とともに、バック から 常 に 持ち歩いているというようなしおりが何枚か入っている本を取り出し、美咲に差し出す。その本の表紙には、鮮やかな色合いのイラストが描かれており、強そうなドラゴンが一体描かれているようにも見えた。カフェのテラスの暖かな陽射しがその本を照らし、優恵の指先がそっと本の角を持ち上げる姿に、どこか柔らかな光が重なって見える。


美咲は少し眉をひそめて、その本を受け取った。ページをめくる手が、最初はぎこちなく感じられたが、やがて無意識にページをめくる速さが増していく。


「…あんま、本とか読まないんだけどさ、面白いねこれ」



「よかったら貸すわよ。これ 面白いからちょうど誰かとこの本の話をしたかったの」

優恵は、美咲の反応を見ながら、笑いをこぼした


美咲は彼女が笑っていることに気づいたのか、わずかに視線を逸らしてから口を開く。


「、、じゃ、暇なときにでも読んでみるわ。」


ぶっきらぼう に 言い ながら も、美咲はその本を両手でしっかりと抱え、手持ちのバッグへと入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る