一欠片の夢

弓先桜和

第1話/交差する視線

 大学近くの居酒屋。大学生たちの集まりであるこの空間で賑やかな笑い声とざわめきが店内に響く中、桜木優恵という1人の少女は静かにグラスを傾けていた。

 その姿は、周囲の喧騒から少し浮いているようにも見えた。


「この場で一人で飲んでるのって珍しいな。」


 不意に聞こえた気だるげな声に、優恵は視線を向ける。明るい茶髪をふんわりカールさせた女性が立っていた。確か、名前は佐藤美咲。大学ではちょっとした有名人である。


「まぁ、別にいいじゃない。ぼっちだって…でも、気配を消してたのによく気づいたわね。」

 桜色の髪の少女は軽く微笑みながらグラスをテーブルに戻した。


「えっと、あんたは……優恵さんだっけ……気配を消せるって何者だよ……

 、、さっきからどうやって馴染むかで必死で、そこから中に話しかけまくってて……たまたま目に入ったというか……(気配消す....?)」モゴモゴ


 そう言いながら、美咲は雑にドカッと優恵の隣の椅子に腰を下ろした。


「まぁまぁ、美咲さん。焦らなくても良いのよ。こういう場では、自分らしくいれば周りに自然と馴染めるもの、しっかりと気を持って、仲良くしたい人だけに話しかければいいの。」


「いやいや、それが難しいんだっての。あたし、正直こういうの慣れてないから…嫌われたらどうしようかって心配になって…」

 美咲はグラスを掴みながら肩をすくめる。このように素直(というかだるがらみ をする)のはお酒の力もあるのだろうか。


「ふふ、意外ね。美咲さんみたいに親しみやすそうな方なら、どなたとでもすぐに仲良くなれそうなものなのに。」 優恵の柔らかな笑みに、美咲は一瞬ぽかんとした表情を見せたが、すぐに照れ隠しのように笑った。


「いや、それ普通にお世辞っしょ。でも、まぁ……ありがと。優恵さんって、なんか話しやすいわ。」


「それはとても光栄ね。こうして話し相手がいると、この賑やかな場だとしても緊張せずに済みますし。」


 二人はその後もたわいない話を続けた。読書の話や趣味の話、ちょっとした失敗談など、美咲の飾らない言葉に優恵が丁寧に応じる形で会話は弾んでいった。




 飲み会の翌日、キャンパス内にある大きな図書館。優恵はお気に入りの席に腰掛け、小説のページを静かにめくっていた。


「……やっぱり、ここにいたか。」


 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには美咲が立っていた。片手には何冊かの参考書が抱えられている。


「まあ、美咲さん。「偶然」ね。」 優恵は穏やかに微笑み、手元の本を閉じた。


「偶然ていうか、昨日あんたがここにいつもいるって教えてくれたから来ただけで…」モゴモゴ 美咲は軽く肩をすくめながら、優恵の向かい側に座る。


「それにしても、早速お勉強とは感心感心。」 優恵は美咲の持っている参考書に目をやりながらそう言った。


「いや勉強っていうより、最近勉強してなくて自分がバカになってたから、昔のようにやろうと思って参考書引っ張り出してきたんだ。昨日あんだけ騒いでた奴らが多いけど、案外みんな勉強とかちゃんとやるんだよなーー。焦るっての。」 そう言って苦笑いを浮かべる美咲に、優恵はクスッと笑った。


「ふふ、それでも....サボっ て いっ た と し て も 思い立っ て......

 こうして行動に移すところは偉いわよ。まあ困った時は何でもお手伝いするから、言ってちょうだいね。」


 その後、美咲は冗談めかして一言呟いた。


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