出汁
むかではみ
香りと記憶
一人暮らしをしていると時折、自炊をしたくなる時がある。
いつもはオムレツとかお好み焼きとかかんたんにできるものばかり作っていたのだが、今日という日はなぜか味噌汁が飲みたい気分だった。
キッチンに立つ母の背中を思い出す。
片手鍋に水、水面に浮かぶかつお節と干し椎茸。
思い出す記憶のままに材料を入れていく。
出汁を取るなんて何年振りかもわからない。ただ香るままに手を動かす。
ふわっと香る出汁の匂い。母の背中を鮮明に思い起こさせる。
出汁を取った後のかつお節は、一口に切ったブロッコリーと醬油で和える。干し椎茸は刻んで味噌汁に入れる。
まだ小さな子供の時からこの料理が好きだった。
帰ろうとすればいつでも帰れる。亡くなっているわけでも、疎遠になったわけでもない。でも出汁を取っているだけなのに泣きそうな気持ちになる。
出来上がった味噌汁をすすり、困ったように頭をかく。
「あれ、なんかちょっとちがうなぁ?」
今度実家に帰ったら、母に出汁の取り方を教わろうと思う。
出汁 むかではみ @honedachi
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