黒薔薇

永嶋良一

第1話

 「 ねえ、お兄さん。寄っていかない?」


 女が私に寄って来た。魔女の格好をしている。夜の飲み屋街だ。狭い通りを多くの酔客が行きかっていた。こういう誘いに乗ると、ろくなことがない。私は顔の前で手を振って、いつもの断り文句を口にした。


 「金がないんだよ」


 女が 妖しく笑った。


 「お金なんていいのよ。今日はね、年に一度の魔女の日。魔女が酒場に集まって、どんちゃん騒ぎをする日なの。お兄さんも寄っていきなさいよ」


 女はそう言うと、私の背中に手を回した。そのまま、眼の前の黒いドアに私を導いていく・・・


 重厚な木製のドアには金文字で『黒薔薇』と書かれていた。


 女がドアを開けた。

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