霧の世界で

蒼樹奏介

生存している者たちへ

地平線に日が沈み、ひとつの暗闇が世界を覆う。人々は闇を凝視し、見えぬ敵を見る。

今回は町がひとつ滅んだ位で終わるといいな。

そんな事を皆が囁きながら日の出をまつ。人類は存続の危機を迎えていた。


21世紀中頃、人類は未知の生命に遭遇した。様々な種類が居り、全てが現存する生物に似ている外見を持っていた。しかし、共通するのは外見の部分部分のみであり、能力、規模などが全て違っていた。いわばキメラというやつだった。


キメラは様々な所に湧き始めた。日本の山岳、ロシアの森林、エジプトの砂漠など、環境などはバラバラである。共通点をみつけたとするならば、そこは人が住まない所であるという一点だけであろう。


発生は不明。発見は人々が死に始めた後。人類は初めから後手にまわっていた。対策は有らず、各国は自国の軍を早急に向かわせた。


その後、彼らは接敵した。無論先手をとったのは軍隊側である。捕捉した先からあらゆるものを撃ち込んでいく。戦車砲は外皮を裂き、肉を焼き、骨を砕いたはずだった。ヘリのランチャーは跡形もなく吹き飛ばしたはずだった。


だが、そいつらは生きていた。脅威的な生命力、再生能力をもってして軍隊からの攻撃を防ぎきってしまった。


当然のごとく、キメラ達は攻勢に入った。相手からの攻撃が効かないとなれば生き残れることは確定している。


そして、結果として各国の先遣隊は敗北した。


先遣隊が敗北したことに対し、核保有国はすぐさま核で焼き払うことを採決し認可させた。


キメラ出現の騒動で周りに避難勧告をだしていたので認可後はスムーズに進んだ。


認可から4時間後、彼らは自国を焼き払った。未曾有の災害が起こる前に。それは適切な判断だったであろう。経済的打撃を被ったとしても。


そして、核非保有国達は出現地域を囲むように警備をしき地雷をまいた。こちらは継続的な被害がでるかもしれないが、一旦収まったといえよう。


だが、やはり人力。突破されるのは時間の問題である。相手が耐えれば勝ちなのに対し、こちらは絶やさなければ負け。そして、絶やす有効手段はなし。


前線にはストレスばかりが溜まっていった。そこで、ある政府が傭兵を雇うことにした。人形機械兵器を扱う傭兵を。


兵器の名はイェーガー。1機で1師団の戦闘力があると噂された代物。世界のどこにも属さぬ狂犬。

その集団の名をリーパーと呼んだ。


そして、彼らはその死地に赴くことになった。


「警告。危険指定区域エリア4に侵入します。直ちに進路を変更してください。」


無機質なオペレーターの声に輸送車の運転手が舌打ちをする。


「まぁまぁ、落ち着いてよ。木崎隊長。」


と、助手席からのんびりとした声がかかる。


「そんなに苛ついて後ろの積み荷に傷を着けたらどうするんだい?」


声をかけられた運転手、木崎勇一輸送隊隊長が眉間にシワを寄せる。


「しかし、これは鬱陶しいですよ。こいつらに呼ばれて来たのに、警報がきられていない。」


と、木崎はぶつぶつ文句をいう


「まぁまぁ、キメラ見たさにここら辺をうろちょろしてる人が多いからねぇ」


と、助手席の男、久城佐一三佐がのんびりした声をだす。


「そろそろですね。」


と、木崎が無線を手に取る。


「リーパー第八小隊指定位置についた。」


「第八小隊現着。了解した。これよりセンサーを切る。」


無線の先からそんな声が聞こえた後に警報ブザーが鳴り響く。


「二分後に小型種が出迎えてくれるらしい。輸送車指定座標まで移動後待機。第八小隊は搭乗しておけ。」


「了解」「りょーかーい」


と二人は言い、木崎は無線の周波数を変え、小隊付きの輸送車に命令を伝達し、久城は貨物区画に通じるドアを開ける。


貨物区画の大半を占拠していたのは無論イェーガーである。輸送用に肩辺りから前に畳まれているので格好は悪いが。


「さて、お散歩だよアテナ」


タラップを上がり、胸部パーツに触れる。


「パイロット。認証。ロック解除。」


無機質な声と共にハッチが持ち上がり、液晶の壁に囲まれた椅子が姿を表す。


「よっこいせと。」


椅子に乗ると、ハッチが閉まり左側にある液晶が通電の状況を示す。


「こちらアテナ。スタンバイ」


その声と共に区画の壁が展開され、腕が正常の位置まで戻る。

ディスプレイが点き、綺麗な夜空が映し出される。


「ディスプレイ良好」


「了解した。装備は好きにしろ。全力で行け。」


「はいよー」


アテナは油圧の力で地面に立てる角度まで押し上げられた後、拘束具を解除し、地面に降り立つ。


「今回は刀と行きますか。」


油圧で上がった床の一部が開き刀が姿を表す。金属同士がぶつかり合う鈍い音を鳴らしながら、刀を掴み、肩にのせ構える。


「たーいちょー、今回は間違ってきらんで下さいね。」


アテナの左右に白い機影が映る。


「すまんかったっていってるだろー」


「さすがにすまんじゃ済まんでしょ。」


アテナを含め、三機が戦闘態勢に入る。未知の生物との二戦目に。


「こちら管制応答願います。」


「こちら第八小隊久城、どーぞ」


久城と管制の会話が始まる。


「そういえば噂でさ…」


と、誰かが話す。


「この時期まで世界にバレなかったのは…」


「小型種接近しています!目視でも確認できるはずです!」


「いない!本当にレーダーはあってるんだろうな!?」


「あってます!始終メンテしっぱなしですよ!?」


「記憶を消したりできる能力があると言われているんだ。」


金属が引きちぎられる音と共に久城の左右の機が後ろに吹き飛ぶ。


そして、いつの間にか自分の前にも…


「通常の獣がもつ能力でさえ人は利器で対応してるのに、それが混ざり合ったらどうなるんだろう?」


「ーあ」


ディスプレイが血にまみれになる

--

薄暗い室内に円筒がところ狭しと並んでいる。その室内には一台のパソコンが置いてあり、その前に1人の男が座っていた。


カツカツ、という音をたてながら白衣の男が彼に近づいていく。


「目的はなんだ?報告か?私の命か?」


「報告だ、教授。」


教授と言われた男は不気味な笑みを浮かべながら振り返る。


「まったく、君のような奴を引き込めて最高だよ。隊長さん?」


教授と言われた男の振り返った視界には、円筒にたっぷりとはいった培養液とそのなかで蠢く何かが映っていた。


「全く、外界の奴らはこいつらが自然発生したとでも考えているのかね?一切そのような兆候がなかったのに」


「だが、それ以外は考えたくないというのは事実じゃないのか?教授?」


「それはそうだ。この組織の存在理由が推測で終わってるのもそういう理由だ。」


教授は不気味な笑みを少し引っ込ませながら言う。


「ところで報告だったな?どうかしたのか?」


「識別番号410、標的二体撃破」


「はっ!そうか!」


「ですが、その後出撃個体全滅です。」


「そうか…」


教授は立ち上がり、パソコン前の円筒の前に立つ。


「少し、お前の力を使うかもしれないな。」


培養液の中身が反応をしめした気がした。

--

警告音と共にハッチの扉が開き、怒鳴り声と喧騒が入ってくる。


「医療班!とっとと連れ出してもっていけ!」


「はっ!」


と、ハッチ前に立ち、開放を手伝っていた男が指示を出す。


「整備班!誤魔化せるか?」


「無理です!誤魔化そうとしないで下さい!」


「ケチ!被害ログ消してやる!」


「中隊長!止めてください!チクりますよ!」


「くそぉぉお!」


半ば私情も混じっていたが。


中隊長と呼ばれた指示を出していた男、島津快斗二佐はふと、机にある書類に目を止める。


「そういえば、どうして第八小隊だけ一機なんだ?」


「さぁ、知りませんね。お払い箱とかじゃないんですか?」


「小隊として勝手に立ち上げられている。それも存在しない人間の名前で。」


隣にいた整備兵が首をかしげる。


「不思議なこともあるもんですねー…そういえばうちのやつって変な書類いっぱいありますよねー」


「確かにそうだな。一応これまでの全てとってあるから後で整理してみるか。」


「んなもんゴミですよゴミ。シュレッダーにかけといて下さいよー?」


「わかった、また今度な。」


「うーわ、捨てる気ないよこの人。」


と、いったように話ながら階段に向かう。


「んじゃ、頼んだぞ」


「わかってますよー」


最後に別れを告げ、階段を下りる。


今日もまた人が消える。

何事もないように

存在そのものがないように

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

霧の世界で 蒼樹奏介 @kuuhukuou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ