第2話

 翌日。

咲来はアナスタシアにもらったブローチを手に悩んでいた。

「毎日押しかけたら迷惑よね……。でも、アナスタシアにも会いたいし。そうだ、会ったらアプリのアカウント聞いてみよう」

咲来は笑顔で支度をして、バラ園に向かう。

「えっと、確かこの辺りで……」

カバンに付けていたブローチが太陽光を反射する。

ブローチの光った先には、あの草の塊の大穴があった。

「ここだ!」

咲来は穴をくぐる。


「ごきげんよう、咲来。お待ちしておりましたわ」

「アナスタシア、こんにちは。突然来ちゃってごめんね」

「まあ、来てくださるなんて。とっても嬉しいですわ」

アナスタシアは眩しいほどの笑顔で言う。

「さあ、おかけになって。今日はダージリンを召し上がって。茶葉はセカンドフラッシュですの」

「わぁ、凄い! 私、ダージリンってあまり飲んだことがなくて。憧れだったの。ありがとう」

咲来は笑顔で言う。

アナスタシアは嬉しそうに微笑みながら、ティーカップを取ってダージリンを注ぐ。

「ここからバラを眺めてお茶をして、優雅なひと時って気分だね」

「ええ、私もこの時間がとても楽しくてよ」

そよ風が吹くたびに、バラの花びらがはらり、はらりと落ちて地面を花びら色に染めていく。

「ええっと、連絡できるようにアプリか何か教えてもらっても良い?」

思い切って咲来はアナスタシアに頼む。

「あぷり……。あら、それはなんですの?」

「え? スマホとかで連絡できるようにしたら、迷惑な時間とか避けられると思って」

「すまほ? 私は世のことに疎くて」

「あ、ううん。良いの。スマホは、こういう板状の……、あれ? 確かにカバンに入れたはずなのに」

咲来は鞄の中と、服のポケットを漁っているが、スマホは見つからない。

「大切な物ですの?」

「うん、友達と連絡したりすることもあるから、今の世の中ではほぼ必須な物だよ」

「そうだったんですのね……、お手伝いしましょうか?」

「ううん、大丈夫。ありがとう。じゃあ、アナスタシアの用事のない日を教えて。そう言う日は避けるようにするから」

「お心遣いありがとうございます。私は大抵ここにおりますわ。夜もたまにお茶をしますの。ここから見るバラがとても美しくて。一度、夜にも遊びに来てくださらない?」

「良いの?」

「ええ。とびきりのお茶を用意してお待ちしていますわ」

アナスタシアは笑顔で言う。

他愛のないことを話している間に、夕焼け空になってくる。

「そろそろ帰らないと」

「またお待ちしておりますわ。いつでも、気にせずに遊びに来てくださいね」

「ありがとう。またね」

咲来は笑顔で帰り路に着く。


 結局、咲来のスマホは部屋の机の上に置き去りになっていた。

なぜか画面がバキバキに割れている。

「カバンから落っことしたのかな?」

その割には不自然なほど、バキバキに割れたスマートフォンを不思議に思いながら、咲来はそのスマートフォンを鞄にしっかりと入れた。

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