スーパーのお客さん
スバ
出会い
「いらっしゃいませ」
日曜の夕方、店内は騒々しくあちこちで誰かの話し声が聞こえる。今日はポイント感謝デーということもあり、店内はいつも以上ににぎわっているようだ。棚を見ると、さっき補充したばかりのお茶がいつの間にかなくなっている。ポケットから愛用しているメモ帳を取り出し、「深いお茶×2」と書き足す。メモ帳を再びポケットにしまい、通路の端に置いていた台車の近くへ移動する。台車の上に置かれた飲料の段ボールが倒れないように整理し、台車を引きながらバックヤードへと向かう。
「失礼いたします」
そう声をかけると、お客さんは自然と台車の通り道を作ってくれる。会釈をしながら人ごみを通り抜け、バックヤードへとつながるスイングドアの前に立つ。取っ手を掴んでドアを開き、そのすきに中へと台車をこじ入れる。引かないと開かないこのドアには、時々不便さを覚える。
定番売り場と違い、バックヤード内には冷たい空気が漂っている。中に入ってすぐ左にある三段台車には、バラの飲み物がいくつも積まれていた。運んできた段ボールの中から補充しきれなかった飲料を取り出し、三段台車の方へ移し替える。飲料をすべて移し終え、残った段ボールを片付ける。時計を見ると、デジタル時計には17時45分と表示されていた。まだレジまで時間がある。「深いお茶 24本」と書かれた段ボールを持ち上げ、先ほど運んできた台車の上へと積みなおす。
「係の方はレジまでお願いいたします」
バックヤード内に活発そうな女性声のアナウンスが流れる。今日は17時から18時までの1時間、レジのサブを任されている。
レジにはすでに行列が出来ており、買い物かごを持ったお客さんが大勢並んでいた。
「清宮くん、3番レジお願い」
「わかりました」
従業員である米山さんからの指示を受け、2番レジで次に並んでいたお客さんを3番レジに案内する。
「お待ちのお客様、反対のレジどうぞ」
そう声をかけると、2番レジに並んでいたおじさんは3番レジへと移動してくれた。おじさんがレジ横のサッカー台に商品を置く。トイレットペーパー1つにカップアイス2つ。
「いらっしゃいませ。お預かりいたします。ポイントカードはお持ちでしょうか」
おじさんは反応しない。直感的に自分はこの人が苦手だと思った。横目でおじさんの後ろに次々とお客さんが並んでいくのを確認する。軽く深呼吸をし、緊張している体を落ち着かせる。12ロール入りのトイレットペーパー1つにカップアイス2つ。片手でトイレットペーパーを持ったとしても、もう片方の手でアイス2つを持つことはできる。この時の僕はそう判断をし、レジ袋を付けるかどうかを聞かなかった。商品を打ち終え、レジスターに会計の値段が表示される。
「お待たせいたしました。お会計1087円になります」
おじさんが現金を取り出そうとしている間に、レジ脇に置かれている小さなポリ袋を取り出して2つのカップアイスをまとめる。これで、持ちやすいだろう。おじさんがトレーの上に千円札1枚と百円玉1枚を置く。
「では、1100円お預かりいたします」
お金をレジスターに投入し、お釣りが出るのを持つ。たった数秒ではあるが、沈黙ができるこの時間にはまだ慣れない。レジスターからお釣りが自動で排出され、レシートと一緒におじさんへと引き渡す。
「お待たせいたしました。13円のお釣りとレシートのお返しです」
すると、おじさんは怪訝な目でこちらを見てきた。もしかしたら、レジ袋を付けなかったことで怒られるかもしれない。小さな不安が次第に大きくなり、心臓の鼓動が早まるのを感じた。しかし、おじさんが言い放ったのは僕の予想と異なるものであった。
「
「えっ」
そんなはずはない。僕は確かに、レジスターから出されたお釣りをそのまま渡した。レジスターの故障だろうか。
「恐れ入りますが、お釣りの方を確認させていただいてもよろしいでしょうか」
渡したばかりのお釣りを受取り、手のひらに乗せて金額を確かめる。
「1円玉が三枚、10円玉が一枚……13円で間違いないと思います」
「あぁ、そうか。お兄さん、すまんな」
そういうと、おじさんは申し訳なさそうな表情で商品を手に取り、店を後にした。不思議に思ったが、気に留める間もなく次々とお客さんがレジになだれ込む。気持ちを切り替え、僕は再び次のお客さんに声をかけた。
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