頼られ姉貴の胸の内

一ノ瀬 夜月

寄りかかっても、良いんだね。

 あたしは、人から頼られることが多い。母子家庭の長女という立場上、母さんが仕事で家を空けている時は、弟達の面倒を見たり、家事をするのがあたしの役割なんだ。

 うちは三人姉弟で、長女のあたし、堂田どうだが高校二年生。長男の隼也しゅんやが中学三年生。そして、歳の離れた末っ子、祥太しょうたが小学三年生だから、この中でバイトが出来るのはあたしだけってわけ。

 受験勉強に真剣に取り組んだ結果、元々の学力よりも上の公立高校へ入学出来たから、バイトや家事と勉強を両立することはそこそこ大変。でも、いつも沢山働いている母さんや、育ち盛りの弟達のために頑張ってる。

 ......という感じで、家で頼りにされるまでは良いのだけど、何故か高校でも似たような状況になってるんだ。あたし自身そこまで頭が良いわけでもないけれど、見た目や普段の生活態度からしっかり者という印象を受けるみたいで、色々と任されているよ。

 勿論、先生やクラスメイトから信頼されているからこそ頼られているのは分かっているの。それ自体は、悪くないことだと思う。でも、支柱を失った建物が簡単に崩れ去るようにあたし自身も.......


***


「やっぱり、熱が出てるね。周りにうつしたら申し訳ないし、高校もバイトも休まないと。」


 母さんは夜遅くまで仕事があるから......酷くならない内に、一人で病院へ行っておこう。

 かくして、診察を受けに行った結果、重大な感染症ではなく、ただの風邪だと分かったの。日頃の疲れが溜まって、身体が弱っていたのかもしれない。二日......いや、三日位は休んでおきたいけれど、いくつか問題があるんだ。

 一つは、家事を誰がやるのかってこと。明日以降は、仕事の調整がつけば母さんがやってくれると思う、おそらくは。でも、今日の夕食がピンチだよね。熱に浮かされて頭が回っていなかったこともあって、レトルト食品とかを買い忘れたから......出来れば、隼也に頼みたい。といっても、最近ピリピリしてるからお願いしづらいんだよね。受験が近いからか、それとも反抗期だからなのか、帰りが遅いことを心配しただけで......


「余計なお節介なんだけど。久美だって夜遅く帰ってくることがあるだろ?それと一緒。」


 という感じで、ひねくれた返事しかしてくれないの。酷い時には、無視されることもしばしば。

 対して、祥太は素直で良い子だけれど、あたしや母さんが甘やかして育ててしまったから、料理を手伝った経験がほとんどないんだよね。そもそも幼いあの子に、火や包丁を使って調理させるのは心配だよ。そんなわけで、我が家の夕食危機が一つ目の問題。

 そして次の問題は、休む間の授業内容を誰から教えて貰うかということ。今のところ、あたしが休むことを心配して連絡してくれる人は数人居るの。けれど、"お見舞いに行こうか?"とか、"授業プリントとノートの写真を送るね〜" みたいなメッセージはないの。あと一時間位で放課後になるはずだから、誰かが教えてくれてもおかしくはないはず。結局、表面上の付き合いってことなのかな。

 ......ダメだ。体調が悪いせいなのか、いつもよりマイナス思考になってしまう。漠然とした不安に襲われるこの感じは良くないね。気持ちを切り替えたいし、一旦寝よう。

 

***


 あたしが寝入ってから、おそらく二時間位経った頃。近くの物音が気になって、起きてみると......


「あっ、姉ちゃんが起きちゃった!辛いならまだ寝ててね。」


「しっ、祥太?何、してるの?」


「兄ちゃんがおでこに貼る冷たいのを買って来たから、それを姉ちゃんに貼ろうとしてた。」


「あたしに近づくと、風邪がうつるよ......って、ちゃんとマスクを付けてるんだね。」


「うん。前に見たアニメで、病気の人のお世話をしてる人が、マスクをつけてるのを見たから!......姉ちゃんも要る?」


「とりあえず、一枚だけ欲しいな。」


「分かった〜、姉ちゃん用の持ってくるね。」


 祥太が声をかけてくるのは、まぁ分かるよ。でも、隼也があたしを気遣ってくれるなんて意外だ。あたしが思っていたよりも、成長していたんだね。


「持ってきたよ〜。あと濡れタオルもあるから、必要なら使ってね!」


「......ありがとう。ちなみに、二人の夜ご飯は大丈夫?」


「うん、兄ちゃんがお鍋を作るって言ってたから大丈夫。姉ちゃんの分は、雑炊にするとか言ってた気がする!」


 体調が悪いあたしが食べれそうなものにしてくれたのかな。惣菜や冷凍食品とかの選択肢もあったのに、わざわざ作ってくれるなんて......隼也に直接、ありがとうって伝えたい。


「夕食が出来たら、隼也を呼んでもらっても良いかな?」


「兄ちゃんが雑炊を持っていくって言ってたから、その時で大丈夫?」


「うん、平気だよ。」

 

***

 

「これ、久美の夕食。それで、俺に用事があるって聞いたけど、何?」


「......夕食を作ってくれたり、必要なものを買ってきてくれてありがとう。それと、ごめん。今まで隼也のこと、子供扱いしてたかもしれない。今度からは対応を改めるよ。」

 

「はぁっ、気づくの遅すぎ。久美は......姉貴は、人に頼らなすぎるんだよ。一人で抱え込んで、知らぬ間にパンクしてるだろ。」


「うっ、確かに。」


「必要な時に声をかけてくれたら、俺達が手伝うから。なぁ?祥太。」  


「えっ?嘘、祥太に聞かれてるの?」


「話が気になってドアの前にいたんだけど......バレてた?」


「なんとなく、お前なら聞いてるかもと思っただけ。」


「姉ちゃん達、邪魔してごめんね。でも、僕も兄ちゃんと同じ気持ちだから!」


 そっか。頼られてると思っていたけれど、あたしが何も言わないから、周りの人たちがどうしようも出来なかっただけなんだ。


「分かったよ。二人とも、これから色々頼むかもしれないけれど、よろしく!」


***


 その日、メッセージを送ってくれた内の一人に授業ノートやプリントを欲しいと送ったところ、快諾してくれたんだ。やっぱり、隼也の言う通りだったみたい。頼られる姉貴ポジは卒業かな?


                 完


※疑問を抱かれている読者様がいらっしゃったため、答えさせて頂きます。私(作者)は一人っ子なので、この話はフィクションです!

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