行き違う心
わたしたちはテラさんの協力の元、文通を始めた。
空の上から見ていると言われてもやはりいろいろ話したくなるのが乙女心である。
些細な日常の出来事やらその日にあったつらかったこと、悲しかったことなどこの3年間のことやさまざまなことを文章にした。
元々、わたしは文章を書くのが好きなので書くことをつらいとも思わない。
むしろ日記のように書いて彼に伝えた。
しかし、わたしの心のどこかに引っかかっている言葉は聞けずにいた。
彼からもポツリポツリ返事が来る。
彼は筆まめな人ではなかったので返事を書くのも一苦労だろう。
この世とこの世だったら『文章』にせずに言葉で話すことが出来る。
しかし、この世とあの世では『電話』をすると言うわけにいかない。
どうやってわたしが書いたものが彼に届いて、彼からの返事がこのように届いているかはわからない。
テラさんに聞いてみようと思ったけれど、なんとなく聞いてはいけないような気がして口をつぐんだ。
…
何度か彼と文通をしているうちにやはりなぜ目の前からいなくなったのか聞かなければ何も前に進めない気がした。
ある時、わたしは筆を手に取った。
『聞きたいことがある。なんで3年前のあの日、わたしの前から姿を消したの?』
返事には数日を要した。
彼から返事が来た。
『仕事のことで悩んでいた。言い出そうと思った。相談しようと思った。けれど…言い出せなかった…。
それ以外にも心的ストレスが重なった。
お互い仕事をしていたし、自分だけのストレスを相談するのはなんだか違う気がした』
短い文章の中に重い口を開いてくれたような気がした。
しかし、わたしには『なぜ、相談してくれなかったのだろう?』
と言う疑問が残った。
相談してくれたとして解決の糸口が見つけられたかはわからない。
でも、わたしにも少しでも何かできたかもしれない。
ほんの少しだけ心にわだかまりが残る。
そこまで思い詰めるまでにわたしに何かできなかったのか?
目の前からいなくなったらわたしが自分を責めて責めて責めて、責めることを想像しなかったのか。
お互いにこの選択がベストだったのか。
すぐに連絡が取れない分、イライラが募る。
また連絡が取れるようになったことへの喜びよりもイライラが募ってしまう。
そんなイライラを筆に乗せて走らせてしまう。
一回書いた手紙を読み返して『はっ』とした。
わたしが彼を、彼の味方でなければいけないわたしが彼を追い詰めたんだ。
わたしはいつだってわたしのことばかり。
彼はわたしのことを考えて相談できなかったのに。
わたしはもう一度与えてもらったチャンスを自分の手で握り潰すところだった。
不平不満なんて言い出したらキリがない。
お互い不平不満なんていろいろあるはずだ。
わたしはこの3年で何が変わったのだろう?
何が変われたのだろう?
何も変わっていなかった
いろいろあっても苦しくても、泣いても叫んでも『一緒に』生きたかった。
それがこの3年のわたしの想いだ。
つらかったら支えあったらいい
悩んだら立ち止まればいい
でもどちらかがこの世から消えてしまえば全て終わり。
一緒に生きたかった
楽しいことがなくても、いいことがなくても、彼と一緒に乗り越えられたらそれで幸せだった。
でもそれを言っても彼を責めるだけで何も生まない。
これからこの世とあの世の離れた世界で何をして『一緒に』生きていけるか、を考えるのが先決だと思えた。
一度書いた不平不満のたんまり詰まった手紙はくしゃくしゃに丸めて捨てた。
わたしの中で何かが変わり始めていた。
…
「テラさん、この手紙届けてください。」
「任せなさい。最近、何か変わったみたいだね!」
テラさんにもわかるくらい何かが変わったらしい。
彼から見えているのだから不平不満をたんまり溜め込んでたわたしを知っているのかもしれない。
いや、知っているのだろう。
彼を失ってから、嫌と言うほど荒れたことも全てお見通しなはずである。
だから、テラさんに頼んでわたしとの縁をまた繋いだのだから。
彼にもわたしにも悪いところがあった。それをもう一度繰り返してはいけない。繰り返すようならわたしたちがもう一度出逢えた縁が『無駄』になってしまう。
わたしは気を取り直して努めて明るい話題を精一杯書いた。
ここに行って楽しかった
友達とこんな話をした
など出来るだけ。
もう誰かを責めたりする人生は嫌だ。
…
テラさんからある驚くべき提案をされることになるとは…思いもよらなかった
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