第2話  心に秘めた思い

電車が揺れるリズムに合わせて、僕の胸の鼓動も速くなっていく。華乃の言葉の一つひとつが、心にじんわりと染み込んでくる。彼女が「話したい」と言ってくれたこと、それだけで嬉しかった。けれど、それ以上に何かを期待している自分がいることに気づき、少し怖くなった。


窓の外に流れる夜景を見つめながら、どう返事をすればいいか考えていると、華乃がぽつりと話し始めた。


「ねえ、輝人。覚えてるかな? 中学の時、同じクラスだった時にさ……数学の少人数で一緒になって、隣になったこと」


「ああ、覚えてるよ。あの時、華乃と一緒でびっくりしたよ、成績良かったはずなのに…」


「ふふっ、そんなことないよ。でもね、あの時からずっと……」


言葉が詰まったのか、華乃は少し視線を落とした。僕はその続きを待つ。


「ずっと、輝人のこと、気になってたの。」


不意に、電車の揺れが強くなる。けれど、その言葉の衝撃のほうが何倍も大きかった。


「え……?」


「でも、高校も違うし、もう会えないかなって思ってたから、ずっと黙ってた。でも今日、こうやって偶然会えたのを見て、やっぱり気持ちを伝えたいって思ったの。」


華乃は顔を赤くしながら僕を見つめていた。その瞳の中に、嘘のない真剣な気持ちが見える。


僕はしばらく言葉を失っていた。胸の奥で押し込めていた気持ちが、彼女の言葉に触発されて溢れ出そうとしている。


「俺も……」


何とか声を絞り出す。華乃が僕の言葉を待つように、少しだけ身を乗り出してくる。


「俺も、ずっと華乃のことが好きだった。」


言葉にして初めて、自分の気持ちがどれほど強かったかを実感した。華乃の目が大きく開き、そして少し潤んだように見えた。


「本当に?」


「本当だよ。だからこうやって、また会えたのが俺も嬉しかったんだ。」


華乃は顔をほころばせて、小さくうなずく。そして、ぽつりと呟いた。


「なんだか夢みたいだね……。」


電車は次の駅に滑り込む。ドアが開くと同時に冷たい夜風が入り込むが、不思議と寒さは感じなかった。僕たちの間に流れる温かな空気が、その場を包み込んでいたからだろう。


その後も僕たちは、これまでのこと、これからのことを話し続けた。駅のホームで偶然耳にした声が、こんなにも大きな変化をもたらすとは、誰が想像できただろうか。


電車が終点に近づき、別れの時間が近づいても、僕たちの心は確かに繋がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る