素直な想い
輝人
第1話 駅のホームでの再会
塾からの帰り道。疲れた体を引きずりながら、駅のホームで電車を待っていた。周囲には同じように疲れた顔のサラリーマンや学生たちが並んでいる。少し冷たい風が吹き抜け、コートの襟を立てた。そんな時だった。
聞き慣れた、だけど久しぶりに耳にする声が、僕の耳を捉えた。
「うん、そうだよ。だからさ、あの日のこと、ちょっとだけ気にしてたんだよね。」
その声の主を探すように視線を巡らせると、少し離れたベンチに華乃が座っているのが目に入った。彼女は友達らしき誰かと電話をしているらしく、穏やかな笑顔を浮かべながら話し込んでいた。いつも通りの柔らかい雰囲気と、どこか大人びた表情が妙に胸に刺さる。
「華乃……」
思わず名前を呟いてしまい、慌てて口を押さえる。だが、その瞬間、彼女がこちらに気づいたようで、顔を上げた。そして目が合う。
「輝人?」
電話を切り、彼女が立ち上がってこちらに歩いてくる。駅の薄暗い照明の下でも、彼女の笑顔ははっきりと輝いて見えた。
「久しぶりだね。こんなところで会うなんて偶然だね。」
「そうだな。塾の帰りで……。華乃は?」
「私は学校帰り。今日はちょっと寄り道してたの。」
お互い、なんてことない話をしながら電車が来るのを待つ。だが心の中では、ずっと伝えられていない思いが渦巻いていた。
電車がホームに滑り込んでくる音が響く。僕たちは無言で電車に乗り込むと、端の席に並んで腰掛けた。
「ねえ、輝人。」
突然、華乃が話しかけてきた。いつもと違う、少し真剣なトーンだった。
「この間言おうと思ってたんだけど……やっぱり言いたくて。」
胸が高鳴る。何を言われるのか、期待と不安が交じり合い、言葉が出てこない。
「こうやって偶然でも会えて、私、嬉しかったんだ。ずっと、話したいなって思ってたから。」
彼女の言葉に、心が熱くなる。電車が揺れるたびに距離が少しだけ縮まっていく気がした。
次の駅に着くまで、僕たちは少しの沈黙の中で、確かにお互いの存在を感じていた。
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