第4話

盛大に泣き出したふわこは、並べていたゲソを一気に齧り始めた。お湯割りもどんどん胃に流し込んでいく。


カウンターの中からその様子を見ていた大将がやれやれとばかりに首を振った。


そしてなぜか、俺の方を向いてドヤ顔。


いや、ほんと何故……。




「おいおい、まーた泣かしてんのか」


「俺は何もしてねぇよ」


「いいか男ってのはな、女を幸せにするためにあって泣かせるもんじゃねぇよ」


「だから、何もしてねぇって」


「ったくよぉ、兄ちゃんは情けねぇ男だよ。こんなゲソしか出てこねぇ小汚い居酒屋ばっかじゃなくて、たまには洒落たとこ連れて行ってやれよ」




だから、俺は何も。


つーか自分で小汚いとか言っていいのか、大将。




「大将ごめんね、ふとっちゃんのこと責めないで」


「そうなのかい?」


「私はふとっちゃんのことも大将のことも、この味のあるお店も大好きだよぉ、ここに来ると元気が出るもん」


「そうかそうか、そんならもっと飲みな。俺からのサービスだ」


「わーい、ありがとぉ」




魔性だ、怖ぇ。


ふわこに笑顔を向けられた大将はデレデレになって、あれもこれもとサービスの品をテーブルに並べていく。


その気になれば、簡単にどんな男でも落とせるふわこなのに、どうして彼氏にする奴は変なやつばかりなのだろう。

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