この「ひとこと紹介」が、すべてを物語っていると思います。
まず最初に申し上げると、私はボディービルダーの世界にはまったく興味がありません。
当然ながら、作中に登場する専門用語や、『篠崎』という人物の行動の多くに、理解が追いつかない場面もありました。
それでも――
いや、それだからこそ、かもしれません。
ページをめくる手が止まらず、一気に読了してしまいました。
気がつけば、自分も“何か”に取り込まれていたような、不思議な読書体験でした。
主人公が作者と同じ『小田島』という名前なのも、どこかメタ的で印象に残ります。
そして迎えるラスト――予感はしていましたが、それでも圧倒されました。
きっと多くの読者が、『小田島匠』さんの描く“狂気の世界”に、惹き込まれてしまうことでしょう。
筋肉隆々の方って憧れます。きっと相当な努力をしているんだと、わかっていたつもりでした。ですが実際にこちらを読んで驚きの連続。
主人公、篠崎さんは最初から予想を超えた方法でバルク(筋肉)をためていき、本番までの間に「え?」と思うような方法で身体を仕上げていきます。
タイトルにある通り薬物で強化を試みますが、何が彼をそこまで後押しし、追い込むのか。
ただ一つの栄光のためだけに、と思うかもしれませんが、彼にとってはそれが人生の全てなのでしょう。どんなことがあってもストイックにボディラインを維持していくその姿勢は圧巻であり壮絶でもあります。
この作品を読めばボディビル競技の厳しさ、上を目指したいと思う選手たちのことがわかります。
興味のある方はご覧いただきたいです。
紀元前5世紀ごろ、古代ギリシアの彫刻家ポリュクレイトスは男性像の理想を数字を用い細かく定め、我々の知るような多くの古代ギリシア~ヘレニズムにおける男性像に影響を与えたとされている。
このように、人間は古くから「美しい身体」を目指してきたのである。
この話はまさに、自分の思う理想の美しい体を手に入れるため、ボディビルに励んだ男の物語である。主に作品内ではトレーニングよりも薬とその影響を頭に入れながら体を作りこんでいく様子が緻密に描写され、身体改造の過酷さを暗に示してくれている。
また、ボディビル素人にも分かりやすく解説されており、イメージもしやすく感じられた。知識のある方や、薬に詳しい方が見るとまた異なる面白さがあるのかもしれない。
個人的には、理想の身体を追い求めることは、「理想」の形が何であれ多くの苦労や犠牲を伴うのだと認識させられた。近年は女性の痩せ願望がエスカレートしているが、あれも理想の身体を追い求め、様々なものを代償にしている例なのではないかと思えた。
健康や理想など、身体に関することは様々議論されているが、理想の身体を目指して継続的に努力を続けることは、かっこいいことで、尊敬に値すると私は思っている。
プロのボディビルダーになるため、オリンピア・ジャパンという大会で優勝を目指す篠崎誠司の、壮絶なる狂気の記録!
ボディビルという世界をまったく知らずに読み始めたのですが、先ず気付かされたことは、この業界の面白さでした。
「美しい肉体」を創り上げるために、トレーナーと二人三脚となって過酷なトレーニングメニュー、食事制限をこなしていく……スポーツとアートが一体となったような競技だということに、本作を通して実感しました。
そして、最高の筋肉を創造するために篠崎が取った方法は、薬物摂取でした。
この薬物による肉体的な変化や精神的に傾いていく描写が物凄く、彼はどうなってしまうのか気にかかり、読みだしたら止まらない!
純粋なまでに狂った彼の生きざまが、どのような結末を迎えるのか……!?
是非ともご一読のほど、確認を!!!
トレーナーの小田島とボディビルダーの篠崎が、二人三脚で日本ボディビル界の頂点を目指す物語。本作は、頂点を目指す過程で避けて通れないこととして薬物使用の問題が描かれており、冒頭から衝撃を受けました。
しかし、本作の主題は、薬物使用によって肉体と精神を極限まで追い込むことで生じる狂気にあります。篠崎は異常な行動に自覚がありながらも、完全に抑えることができません。小田島はそんな彼を強く支えますが、破滅に向かう篠崎を決定的に止めるわけではありません。一つの目標に向かううちに、何が普通で何が異常か、判断が曖昧になっていく――そんな伝播する狂気の表現も本作の魅力かと思います。
そして、迎える最終話のタイトルは『頂(いただき)で見た景色』。この言葉が示すものとは何か——それはぜひ、本作を読んで確かめてください。
なお、作者自身が現役のボディメイク選手であり、専門的な用語の説明も理路整然としていて、ボディビルに詳しくない読者でも問題なく読み進められます。おすすめです!
ボディビルに命を懸ける篠崎誠司を主人公にした本作品。ボディビルと言えばたくましい肉体! その肉体を作るのに決して欠かせないのは激しい筋トレ!……と言いたいところだが本作ではそうした筋トレの描写はほとんど出てこない。代わりに出てくるのが壮絶なまでの薬物描写!
筋肉を発達させるためのステロイドはもちろん、不要な脂肪を落とすための減量にも薬物を利用するし、筋肉のキレを良く見せるために薬物を使って体から水分を絞り出す。当然健康に良いはずもなく、たくましく肥大する筋肉とは裏腹にどんどん篠崎の精神は不安定になり、健康診断の数値も急激に悪化……。情緒不安定になり、周囲に当たり散らしながらも、筋肉に憑りつかれてひたすら鍛え続ける篠崎の姿には鬼気迫るものがある。そして本当に恐ろしいのは、彼のトレーナーを任せられながらも、この暴挙を見守るばかりでほとんど野放しにしている小田島の存在かもしれない。
スキャンダラスな薬物描写がどうしても目立ってしまうが、それ以外のボディビルに関する事細かな知識や技術もしっかりと全体に散りばめられており、それが作品全体に異様な迫力を生み出している。綿密なリサーチによって作品に強度と説得力をもたらしている好例となる一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
僕(小田島匠)の目を通して篠崎誠司という若きボディビルダーの人生が描かれる。
僕がワトソンで篠崎がホームズといった感じだが、自分は『あしたのジョー』を連想した。
ただし、あした~では拳キチの段平がやる気のない不良少年のジョーをボクシングに引きずり込むのだが、狂気~は逆にクールなトレーナーの僕を選手の篠崎が終始翻弄する。
ボディビルの実態が詳細に描かれる。
トレーニング方法や食事もだが、ドーピングの実態も赤裸々に描かれる。
とくにドーピングは素人にはまったくうかがい知れない世界で、それをこれほど緻密に描いた作品は世界的に見てもあまり例がないと思う。
篠崎が自分自身に対するマッドサイエンティストになって暴走する姿はへたなホラーより迫力がある。
最初は異様でこわいだけだが、最後優勝が決まってなお水とアンパンを拒否する篠崎には感動した。
「そこまでやるのか(やらなければ到達できないのか)」
と仰ぎ見る思いである。
「三島由紀夫にこの小説を読ませたかった」
と思った。三島ほどボディビルに入れ込んだ文学者はいない。
正直にいうとボディビルをやったことが三島にとってプラスかどうかわからない。
元々華美だった三島の文体が、筋肉の鎧をまとってからますます比喩や形容詞が増えた過剰武装な文体になった。
ただし三島なら大喜びで篠崎の「狂気」を緻密に読み解いたと思う。
ホームズ、あしたのジョー、三島由紀夫、さらに決してあきらめない篠崎の姿はヘミングウェイ『老人と海』の老人も連想させる。
過剰なのにストイックなのだ。
ボディビル愛好家以外の人にもおすすめしたい傑作です。
篠崎誠司は決意した。
オリンピア・ジャパンで優勝してプロカードを取得する。
そしてプロのボディビルダーとしてアメリカで活動すると。
掲げた目標へ向かう彼の肉体改造が開始された。
過酷なトーレニングとあらゆる薬物を用いて筋量を増やし、脂肪を削ぎ落とす。
篠崎の日常は壮絶な作業であり、苦役に等しい日々だ。
発作のような飢餓感を耐え、健全な精神と肉体を引き換えにして、ただひたすら目指す肉体へ向かう行程。
それはまさに命を削る作業。
何故ここまでしなければならないのか?
疑問を呈した我々も、頭の隅ではわかっている。
尋常でないことを成し遂げるのなら、尋常でない精神を持つしかないことを。
だが殆んどの人間に、そんな意思は持てるものではないことを。
篠崎の肉体は彼の執念に導かれ、現実から乖離した何処かへ向かう。
やがては彼が行き着くべき場所へ辿り着く。
多くの読者の知らない世界で命をかける男たち。
切り立つ膨大な筋肉を形成するため不惜身命で望む苦行。
そうとしか生きられない者のひたむきさに、ある種の感動さえ覚える物語がここにある。
タイトルの通り、まさに「狂気」としかいいようがないボディビルダーの半生を描いた作品。
主人公の小田島昇(しょう)は、篠崎誠司(しのざきせいじ)という21歳のボディビルダーのパーソナルトレーナーとなる。目的は日本のオリンピア・ジャパン大会での優勝→プロとなりアメリカで活躍すること。
篠崎は「人類にとっておよそ到達不可能な限界値の筋量を手に入れたい」と願っており、そのためには薬物すらも使用する情熱と努力を惜しまない男だった。
(大会によるが薬物の使用は違法ではない)
しかし、薬物の使用は効果も大きいが副作用もあり、篠崎は副作用で病気になる手前ギリギリまで攻めるタイプだった。
命を削ってまでも理想の身体を手に入れたいという彼を突き動かすのはいったい何なのか。恐らくそれは、彼にしかわからない、頂点から見る光景だったのかもしれない。
感想:ボディビルの世界の想像以上の厳しさを垣間見ることができる。作中で使用されている薬の名前や効能などは詳しく説明されていて、あの、バキバキの身体を作るのはいかに熾烈なものであるかが窺い知れる。
薬による副作用を、さらに別の薬で対処する姿は痛ましく、爽やかで明るい性格だった篠崎が、薬の副作用によって急に激高したり、それを悔いて子供の様に泣き出したり、しまいには「もうやめて!彼のライフはゼロよ!」と言いたくなってしまう。
大抵の人は筋肉づくりをしたあとで減量して筋肉を落とさずに脂肪を落とすということすら知らないのではないだろうか。自分の知らない世界を知り、読後はしばらく茫然とした。
オススメです💪