第3話シャルジャのイスラーム文明博物館

 「UAEの中でもとりわけ芸術や教育に力を入れているのが、このシャルジャだ。それを象徴するのが、このイスラーム文明博物館だ。」

サツキの説明は、頭の上を通り過ぎていくが、ステンドグラスが綺麗だし、建物自体も流線の使いが美しい。

トルコの発明家「アル・ジャザリ」の象の水時計なども展示してあって、芸術的にも素晴らしい物が多かった。


ー沢山写真を撮って、桜に見せよう。ー

「どこで写真を撮っても絵になるな。これは、いい。」


「本当は早く日本に帰って、桜に会いたいんだろう?。」

ーサツキはいつだって、俺をからかう事を忘れない。ー

「もちろん。だが、予定通りに仕事はちゃんとするさ。せっかく桜が俺たちの大学に合格して、近くに引っ越してきたのに、俺たちは卒業して、会社を設立、直ぐに、UAE出張で、桜と会うことも出来ないなんて。」


「いい考えがある。うちの会社の事務のアルバイトを桜に頼もう。そうすれば、進藤は桜と一緒にいられる時間が増えるだろ。」

「さすが、サツキ。後で、桜に話してみるよ。」


歩いて、見本市会場に着き、シャルジャの見本市の準備をはじめようとすると、見本市は、大騒ぎになっていた。


「花沢さんの遺体解剖の結果、死因がホミカだったそうだ。」

「ホミカ?って何?。それってどういう事?。」

「病死じゃなくて、殺人だ。」

「え?、花沢さんが、誰かに殺されたって事?。」


「大変だ。大河原さんが病院で死んだ。遺体が解剖にまわされるらしい。」

「大原さん、花沢さんと同じ症状だったって?。」

「つまり、大原さんも殺された?。」


「誰かに、変なものを食べさせられないように、気をつけろ。」

「特に、笹塚にな。あの二人、笹塚と揉めてたよな。」


サツキは首を傾げながら、皆の噂話をきいている。

ーこんな風にサツキが大人しい時は、何か考えてる時なんだ。ー

「サツキ、ホミカってなんだ?。」

「ホミカは、マチンの種で猛毒だ。マチンはインドから東南アジアの国々に生息する果物で、中毒すると全身筋肉の強直性痙攣で死ぬんだ。」


「じゃあ、その果物を食べなければいいのか?。」

「いや。ホミカは毒矢とか、静脈注射で殺人に使われることが多い。あれは相当苦いらしいからな。」


「じゃあ、二人共、毒矢で刺されたか、注射されたってこと?。」

「まあ、他の方法でも可能だがね。」


長い一日が終わり、片づけをしていると、笹塚が夕食を誘いに来た。

「いいよ。店は任せる。」

サツキは気楽に、笹塚と食事に行く事に同意したが、周りの人々が野次を入れた。

「よく、平気で、笹塚と食事ができるな。」

「三人目の被害者になるなよ。」


笹塚おすすめの店は、地元の人々で繁盛する、家族経営の店だった。

「旨い。君の舌は確かだ。」

「ありがとう。五月さん、進藤さん。私と食事に来てくれて。」

さすがに今日の笹塚はしおらしかった。

ーあれ?、彼女、こうしていれば美人で、魅力的かも?。ー


「花沢さんと大河原さんは、以前、君の会社と何かあったの?。」

「ああ、あの二人、過去に何度もわが社の商品を、横取りしてたって聞いてる。我が社で購入が決まっていた商品を、製造会社に詰め寄って、自分たちの所に納品させたって。彼らのせいで、過去にウチの社員がノイローゼで退職したとも聞いたわ。」


「そうなんだ。なんていう人?。いつ、退社したの?。」

「たしか、加々美さん?。私が入社する一年前に退社したらしいけど。どうしてそんな事、聞くの?。」

「僕が、メイ探偵だから。」

「名探偵?。自分で言っちゃう?。」


「ああ、五月は英語でメイだろ。だから、メイ探偵。」

「ああ、それは良いわね。じゃあ、メイ探偵さん。この、連続殺人事件を解決してよ。」

「うん。解決するよ。たぶん、明日か明後日には。」

「そう。それは、楽しみ。」

ーなんだ、この二人の世界、みたいな雰囲気は。サツキ、笹塚は悪い奴だ、好きになっちゃダメだ。ー


「笹塚さん、見本市で嫌われてますけど、どうしてなんです?。」

俺は、また笹塚に意地悪を言ってみた。


「自分の過去の業績を、鼻高々に自慢するおじさんたちが我慢できなくて、きついことを言ってたから。でも、本当の事だもの。過去なんか自慢してる暇があるなら、未来を見据えて、今、頑張ればいいでしょ。」


「俺も、そう思うよ。進藤だって、そう思うだろう?。」

「まあね。でも、それだけで、こんなに嫌われたの?。」

「仕事が出来る女性が、気に入らないおじさんが多いの。加々美さんって人も仕事ができる女性だったらしい。そのせいで、花沢と大河原にわざと、潰されたって、聞いたわ。」


「そうなんだ。君の入社前に辞めた人なのに、詳しいね。」

「ああ、公原さんが話してた。あの人、噂話が好きだから。」

「確かに。ちょっとでも暇があると、ウチのブースに来て、噂話をしていくよ。」

サツキと笹塚は仲良さげに話を続けている。


二人はプライベートな連絡先まで交換しはじめている。

ーなんだか、二人の恋路を邪魔しようとするのが馬鹿らしくなったきた。ー

笹塚は目鼻立ちがはっきりした背の高い美人だし、サツキもちょっとハーフっぽい美形で高身長。二人とも頭脳明晰、性格にはちょっと不可あり。

ーこの二人、お似合いなんじゃね?。ー


「ごちそうさま。俺、先にホテルに帰るよ。桜に電話するんだ。」

そう言って、俺は、二人をおいて、先にホテルに帰った。

無性に桜の声が聞きたかった。

ー俺、親友を取られそうで嫉妬してる、心の狭い男なんだろうか?。ー


桜と話し終えて、携帯を置いたところに、サツキが帰ってきた。

「なあ、サツキ。お前は美形で頭もいいし、女にモテる。それでも、今まで彼女をつくらなかった。それなのに何故、悪い噂が多くて、殺人犯かもしれない笹塚がいいんだ?。」

「殺人については、後日ちゃんと話すよ。

それに、悪い噂も信じられないな。」


「なぜだい?。」

「彼女、仕事中はフルメイクもするし、目立つ着物も着るが、普段着はシンプルだ。小さなアクセサリーと、ポイントメイクだしね。」

「それがなんだい?。」


「派手好きではないし、男に媚を売る性格ではない。俺たちの体に触れてきたりもしないだろう?。」

「まあね。口は悪いけど。」


「物事をはっきりと言うし、毒舌だが、正直だ。」

「でも、彼女、高級ホテルに泊まっていたろ。そこでアラブの金持ちと目撃されてる。」


「あれだって、正直に自分から話しているし、本当はアトランティス風のテーマパークに行きたかったからだ。アラブの金持ちの件も、秘書のような女性が一緒だった。」

「まあな。」


「彼女は、きっと、良い娘だよ。進藤、お前にもすぐにそれが解るさ。」


次の日、

「すみません。笹塚さんですね。花沢さんと、大河原さんの件で、少しお話を伺いたいのですが。」

日本から警官が、見本市にやってきて、笹塚に話しかけた。


「いいですけど。ここで話しますか?。見本市の最中で、お客様もいらっしゃいます。控室にでもいきますか?。」

そう言って、笹塚は警官と控室に入っていった。

笹塚は堂々としていて、普段と変わらない様子だった。







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