(1)秘密結社との出会い
「はー、疲れた」
家路に向かう、彼女のため息混じりの愚痴。なんだか色んなことがあった1日。連日の仕事の忙しさもあり、滅入っている様子。
「家帰ったら、すぐ風呂だ」
一刻も早く家で落ち着きたかった。
なんだか、今日のことを一旦洗い流して忘れたかった。
そして、アパートの黒屋根が見えた。やっと、楽になれる。その時、思わず目を疑った。部屋の前にたかる男達。多少の怒号も聞こえる。
「おい、おらんのか!」
「出てこい!」
一気にゾクゾクし、パニックになった。
とりあえず、外の塀に隠れた。警察を呼ぶ手もあったが、到着までに見つかったらと、不安がよぎる。第一、警察から様々事情聴取を受け、また縁を切った父のことを思い出さないといけなくなるのが辛く感じた。その時、
「あ、これ・・・」
ズボンのポッケの名刺の存在を思い出す。同時にマッキーの言葉がフラッシュバックする。実は、マッキーが帰ったあと何かが気にかかった瀬野は、名刺を取りに戻っていた。
改めて住所を見ると、どういう運命か。ここからわずか300mの場所だった。と、ふと顔を上げると男の1人がこちらに向かってくる。他に手立ての浮かばない瀬野は、ついに決心した。名刺をすっとポッケに戻して、住所の方向へ走り出した。3分ほどで、住所の場所に到着した。一見の何の変哲もないビルだが、名刺に「2F」と書いてあるので階段をかけ上がり、インターホンを押す。しばらくして、ドアが開く。
「あら、こんばんは。どうかしました?」
そこに居たのは、黒髪ロングヘアーの女。
最初は、夜の来客に戸惑っていたようだが焦って何も話せない瀬野に、すぐに状況を察し、
「まあ、何かあったんでしょ、どうぞ」
ウェルカムモードで招き入れた。応接間だろうか。フカフカのソファーに瀬野を座らせると、対面に座った。
「あなた、名前は?」
「私は、せ、瀬野」
「瀬野ちゃんかぁ。どうやら、パニックでまだ話せなさそうだから、私から話すけど、うちは秘密結社と言ってね、裏で暗躍するみたいな感じ?今更ながらちょっと説明難しいかも」
すると、瀬野は
「なんだか、ちょっぴり話には聞いてます」
そう言いながらポッケの名刺を机の上に差し出す。女は納得した顔をして、
「なるほど。また、あいついい格好したのね」
と一言。すると、奥からニットキャップを被った女がお茶を持って現れた。
「マッキーは、男女問わず悪者見ると飛びついちゃうもん。
2人して、似たり寄ったりな黒トレーナーを来ている姿に瀬野が実に暗い色合わせだなぁ、なんて思っているうちにニットキャップの彼女も対面に座った。
すると、ロングの女が話を続ける。
「そうだ。名乗ってなかったわね。私は、アム。まあ、立ち位置的にはうちの社長みたいな感じ。よろしく」
「私は、ダーク。よろしく」
ニットキャップの女の奇抜な名前に目を見開いていると、
「まあ、驚くでしょ?みんな、初対面はそうなんだけど、あくまでこれコードネームというか?昔、私が
「なるほど」
初対面にもかかわらずここまでフランクに喋ってくれる2人に瀬野は徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「さて、そろそろ瀬野ちゃんの本題を聞きましょうか」
アムに促されて瀬野は、全てを話していく。
「今、帰ってきたらアパートの前に
「それは、大変だったね。でも、どうして
ダークの質問に瀬野はひとつひとつ句読点をつけながら淡々と続ける。
「私ね、親が早くに離婚して、お父さんと暮らしてたんだけど、家に帰らずパチンコざんまい。負けまくって、気がついたら借金借りまくって、しかも利子はデカイけど額の大きいとこ、闇金ってやつ」
「それは、ひどいね」
ダークの同情に、瀬野は頷きながら話を進める。
「それでね、私もう耐えられなくなって、縁を切ったの、家も出たし」
「じゃあ、どうして瀬野ちゃんを追い回すのかしら」
アムの問いかけに瀬野が答える。
「お父さんね、どっか行っちゃったの、蒸発みたいな?だから、剥ぎ取る矛先がなくて、こっちに来ちゃうの」
「そういうことだったのね。話してくれてありがとね」
アムが感謝を伝えていると、奥からさらに人がやってくる。
「わっ、かわいい!いい顔してるじゃん!将来絶対モテるよ!」
今度の女は、ツインテール。目を輝かせながら視線を向けてくる圧の強さに、少しうっとしていると、
「おいおい、そんなにガッツリ行くなよ。お客さんが怖がっちゃうぞ」
目の前に現れた男。
「あっ!」
いた。さっきのあいつだ。マッキーだ。会いたかったような、会いたくなかったような、瀬野は急によそよそしくなる。
「あっ、瀬野ちゃん!さっきは余計なことしちゃったみたいでごめん。来てくれたんだね」
意外に誠実な、マッキーの謝りに瀬野は、ぐっと唾を飲み込んで答える。
「いいよ。私もちょっと強く拒否っちゃったし。で、金取りに見られて、余裕なくて、名刺もらってたから、顔覗かせてみたの」
「ありがとう。君の他人に迷惑かけたくない気持ちもよーくわかる。でも、自分が辛いときは、周りの人に抱きついてもいいんだ」
なんだかよくわからないけど、ちょっと涙が浮かんできた瀬野。すると、その姿を見ていたアムが、
「なんか、出来上がってない?このまま付き合っちゃうのかしら」
「まさか~、でも確かによくわからないけど何か感じるね!」
ツインテールの女も同調していると、2人の話が落ち着いてきた。
「改めてだけど、僕はマッキー。4人の中で唯一の男だね」
「そして私は、ボニー!よろしく!」
ツインテールを揺らしながらの自己紹介も済んだところで、ダークが話す。
「私達を頼ってきてくれてありがとう。瀬野ちゃんが、ここへ来たからには私達が絶対に悪党達から守ってあげる。ね?」
「もちろん!」
ボニーの一言に、マッキーとアムも大振りに
「よし、金取り退治作戦、決行よ!」
「ラジャー」
アムのかけ声に、みんなで声を上げた。
と、ここでマッキーが一つ提案する。
「そういえばさ、瀬野ちゃん今日寝床ないよね?泊まっていくかい?もちろん当たり前だけど僕とは別部屋ね」
「え、そんな・・・」
「遠慮しなくていいわよ。空き部屋あるし、不安だったらボニーかダーちゃんの部屋で寝ればいいし」
「でも、迷惑じゃない?」
アムの心遣いにも、なんだか申し訳なさを感じた瀬野だったが、
「今、退治作戦決めたとこでしょ!私達はね、困っている人は、なんとしてでも守ってあげたいの。自分から言うのもあれだけど、ちょっとした優しさだよ」
ダークの心意気を感じた瀬野。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「おっけー。パジャマはTシャツとかで良かったら、準備するわね」
「ありがとう」
ここに泊まることになった瀬野。
その後、風呂に入り服のサイズが近かったボニーから借りたTシャツを着る。こうしている間に徐々に落ち着きを取り戻すばかりか、若干安心感を抱いていた。空き部屋があると、聞いていたので一人で寝た方がいつも通りの感情になれるとも思ったが、その空き部屋は掃除しておらず思ったよりホコリを被ったままらしく、結局ダークの部屋で寝ることになった。
「寒くない?」
「大丈夫。この、毛布がフカフカだから」
「それは、よかった」
ダークとの何気ない会話。だけど、まるで離婚して以来20年ぐらい会っていないお母さんと話しているみたいに感じた。
「あの、」
「どうしたの?瀬野ちゃん」
「ほんとに、金取りを倒せるかな?」
「大丈夫。倒せない相手なんていないんだから。必ず勝てるから」
「ありがとう。安心した。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
すぐに眠ってしまった瀬野。
「ふふ。寝顔もかわいいね」
疲れた瀬野をいたわるように、ダークはゆっくりと部屋の電気を消すのであった。
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