タナカの<ふりかけ>ミニパック詰合せ
第04話 咲楽子先輩と令和の米騒動(1)
大学から帰ると、実家から救援物資が届いてた。
風邪でダウンしたとき、お母さんにLINEしたからかな。
ゆうパックの段ボール箱には、お母さんの字で「野菜、米」。
どちらも高騰のご時世、ありがたし。
でも、これを抱えて一階から二階へはキツい。
配達員さんが一階の大家さんちへ預けていったのだけれど。
軽く抱えた感じ、お米は十キロありそう。
持てなくはないけれど、このアパートの階段狭いから怖いな。
「せーの……それっ!」
はうっ、やっぱり重い!
いったん下ろす!
ふぅ……これはたぶん、階段の途中で力尽きるやつ。
この場で開封して、お米と野菜を個別に運ぶしか──。
「持ってあげようか?」
「えっ?」
背後から、知的さを帯びた高い声。
聞き覚えのある声。
振り向けば、そこには美冬さん。
咲楽子さんのルームメイトで、学部は違うけれど同じ大学の一年先輩。
「……こんにちは。あの、ここで開封して、少しずつ運びますから大丈夫です」
「懸命な判断ね。けれど一回で運べる者が手伝うと言っているのだから、そちらが効率的よ」
「でもこれ、お米入ってて重いですし……あっ!」
──ひょいっ!
……という音が鳴った気がした。
美冬さんが細腕で、軽々と段ボール箱を持ち上げる。
細いのは腕だけじゃない。
頬も、首も、腰も、脚も……わたしよりずっと細い。
それでいて全身のラインは、頭から足先までメリハリのある曲線。
わたしが彼女より細いのは胸くらい……うう~。
そんな美冬さんが段ボール箱を胸元で抱え、階段の一段目へ足をかける──。
「重く……ないですか?」
「それなりには。けれどこの階段を、二人分の食材抱えて上るのも一年半。もう慣れたわ」
「二人分……あっ、咲楽子さんの分も!」
軽快に階段を上がっていく美冬さん。
そのお尻を正面に、手ぶらであとに続く。
チャコールブラックのノータックパンツに浮かぶ脚線美……うらやましい。
うらやましいけれど、好きなのはやっぱり、丸っこくてぬいぐるみみたいな咲楽子さんのほう。
「ドアのわきまででいい?」
「あっ、はい! ありがとうございました!」
むしろ、部屋の中まで……なんて言われたら困る。
わたしの部屋には、咲楽子さんの私物がたくさんあるのだから……。
「……運んだお礼を、というわけでもないんだけれど」
「はい?」
「咲楽子が外食しているところ見掛けたら、教えてくれない?」
「え゛っ!?」
「あの子、朝晩わたしと同じものを食べているのに、妙に肉づきいいのよ。きっとどこかで間食してる。樹崎さんは咲楽子と学部同じだから、昼間にちょくちょく見掛けるでしょ?」
「ええ、まあ……」
光沢ツヤツヤの黒いセミロング、眉上できっちり揃った前髪。
いいシャンプー使って、いい美容室通ってるんだろうなぁ。
キレ長の目、小さめで高い鼻、形のいい薄い唇、尖った顎。
クールビューティーのお手本のような美人が見据えてくる。
美冬さんの普段の顔だって知ってるけれど、咲楽子さんの間食の共犯者としては、詰問されているような気に──。
「告げ口を頼むようで恐縮だけれど、お願い」
「わ、わかりました。咲楽子さんが外でドカ食いしているところ見たら、お伝えします」
「ありがとう。それじゃ」
くるりと身を翻す姿も様になる美冬さん。
自室のドアの鍵を開けて、中へと消える。
咲楽子さんはもう帰ってるのかな。
咲楽子さんに「おかえりなさいっ♪」と言われる毎日……うらやましい。
ふうぅ……。
その咲楽子さんを見張るスパイ役を引き受けちゃったけれど、それはあくまで外……外食だけだって答えておいた。
わたしの部屋は、咲楽子さんの隠れ家、第二の家。
外じゃない、内。
だから報告の必要……なしっ!
うんっ!
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