星想と枯れない花

宗谷 優希

プロローグ

 黄昏時。自然の多い場所ではもう、薄っすらと星が見えている頃。

 ナツは口角を上げて、少し頼りない彼の背に回る。まだスーツに着せられているような彼は、これから恋人にプロポーズしに行くらしい。


 「大丈夫。絶対に、上手くいきまっす!」


 門の内から外へ、ナツは彼の背中を思いっきり叩き押す。

 都会の明るさに弾け飛んだカラフルな星達が彼の全身を覆う。

 その彼にもきっと見えていない。あまりにも美しいのに、見える者が他に居ないのが勿体無い。


 衝撃でよろける彼の手には1本の赤い薔薇。

 ベタで分かりやすい100本の赤い薔薇よりも、幻と言われている青い薔薇よりも、大切な1本の赤い薔薇。


 「っ!ありがとうございます!」


 眩しい笑顔の彼は「それじゃあ!」と、片腕を振って元気良く駆け足で在るべき場所へ帰っていく。


 「大丈夫。彼は必ずあなたを見つけてくれます」


 家の中から様子を伺っていたであろう彼女へ、振り向くことなく話す。


 「あなたはあなたの天命を終えてから、遅刻していけばいいんですよ」


 道の途中に落ちた1本の赤い薔薇をそっと拾い、彼女へ渡す。


 「いつの日か『忘れ物だよ』って、渡してあげてください」


 ナツは彼女へ、とびきりの笑顔を向けた。

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星想と枯れない花 宗谷 優希 @soya_yuki

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