第7話後編
次の日、朝食を二人で食べ、馬小屋に向かった。
十頭を繋げることができる馬房。
入り口の幅二メートルで高さは、三メートルほどだ。
二人はその前に立った。
竜がさくらにナイフを渡した。
「魔法陣を今から書く。さくらは簡単に消えないように、魔法陣の図形に沿って、地面に深く刻みつけてくれ」
竜がリボンスティックを使って、入り口の前に大きな円を書き出した。そして、細かな図形を書いていく。それに沿って、さくらがナイフで、深く掘っていった。二人で協力し、馬小屋の入り口に大きな魔法陣を完成させた。
そして二人は馬房の屋根に登り、寝転がりながら怪物の到来を待った。やがて現れたのは、さくらの予想を遥かに超える怪物だった。
「竜!コレって恐竜じゃない。なんで恐竜がいるのよ!こんなの無理だよ」
竜は指を山の方に向けて、冷静に答えた。
「山の麓に森が見えるだろ。あの辺りに住んでるやつだと思うぜ。お前の居た世界に恐竜は居なかったのか?」
「居るわけないでしょ!」
「心配するな。二、三メートルほどの小型だ。さくらが迷った森にもいたかもしれないぜ」
「嘘でしょ、、、」
さくらの動揺をよそに、竜は作戦を説明し始めた。
「いいか、魔法陣に入ったら発動させて、そこから出られないようにする。それから、二人で攻撃するんだ。さくらは足を狙え。俺は首を狙う。倒してしまえば簡単にやれる」
さくらは恐竜と戦うことに、不安を拭えなかった。
二人は、恐竜が魔法陣に入るのを待った。恐竜が少しずつ、魔法陣に近づいてくる。
竜がさくらに小声で、
「あと少しだ。準備はいいか」
不安を打ち消すように、竜に文句を言った。
「そんなのいいわけ無いでしょ!」
恐竜が魔法陣の上に乗った瞬間、竜は屋根から飛び降りて、リボンスティックを地面に突き刺した。
「発動!」
魔法陣が青白い光を放ち、恐竜の動きが鈍くなる。
「今だ、さくら!」
さくらは恐竜の後ろに飛び降りた。
妖刀田中家の刃が恐竜の左脚を切り裂いた。刀から斬った感触が伝わったが、予想以上に皮膚が固く、完全には斬り落とせなかった。恐竜の目がさくらを捉え、顔がそちらを向いた。
その瞬間を逃さず、竜のリボンが恐竜の首に絡みついた。このままリボンスティックを引っ張れば首は落ちる。
しかし、恐竜は大きな口でリボンを咥え、引っ張り始めた。
竜と恐竜の力比べだ。竜の筋肉が盛り上がる。
「この野郎!」
この時、想定外の事態が起った。さくらの気づかないうちに、もう一匹が背後に来ていたのだ。
何かを感じたさくらは、ふり返りながら刀を振った。恐竜の鼻先が切れ、動きが一瞬止まった。しかし、すぐに噛みついてきた。さくらは横に飛んで、二匹目の恐竜に向かって刀を向けた。
「竜、逃げよう!二匹は無理だよ」
「ダメだ、こいつらのほうが速い。後ろから襲われちまう」
「この刀の秘技を使えば逃げられるよ」
「逃げたら、馬が貰えない。師匠のとこまで歩いていくつもりか!」
「そんなこと言ったって無理だよ」
「俺がこいつを片付けるまで、時間を稼いでくれ」
そう言うと、恐竜の首に巻きつけてたリボンを解いた。リボンを咥えている恐竜の目を狙って、解いたリボンを走らせた。
恐竜は目を狙ってくるリボンを避けるため、咥えていたリボンを離した。
竜はリボンを操り、さくらの切った左足にリボンを巻きつけた。
「これで終わりだ!」
巻きつけたリボンを引っ張り、左脚を切り落とした。
恐竜は倒れたが、上半身が魔法陣から出てしまった。
右足と両手でジリジリと竜に迫ってくる。恐竜は、ジャンプして竜を襲った。横に飛んで避け、リボンを首に巻きつけて引っ張ったが、暴れてなかなか切れない。
もう一匹の恐竜は、さくらを食い殺そうと狙っている。口を開け、唸り声をあげて、首を伸ばして、威嚇してきた。
さくらは横にかわして、恐竜の首に妖刀田中家を振り下ろした。血は出たが、皮膚が固く首が大きいために致命傷にはならなかった。
首は諦めて、手首を切り落とした。 怒った恐竜は、叫び声を上げながら、さくらに襲いかかってきた。
(確か田中家流に、硬いものを切る技があったような)
その時、銃声が響き渡った。馬小屋の主人、阪 楠智(はん くすとみ)がライフルを撃ったのだ。そして、嬉々とした表情で叫んだ。
「黒王の仇だ!」
恐竜の胴体から血は流れているが、あまり効いてないようだ。恐竜は、首を馬小屋の主人に向けた。さくらから、目標を変えて、馬屋主人に向かって走り出そうと、後ろを向いた。その瞬間、さくらが尻尾を切った。
また、恐竜はさくらの方を向いた。馬小屋の主人が、もう一度ライフルを恐竜に向けて撃った。また、馬小屋の主人の方を向いた。
しかし、尻尾が切られた恐竜は、弱点が丸見えになっていた。それを、さくらは見逃さなかった。柔らかいお尻から、妖刀田中家を深々と突き刺して、お腹に向かって切り裂いた。
ギャーギャー!
恐竜が痛そうに叫んで倒れた。
竜は一匹目の恐竜を倒して、駆けつけてきた。
倒れている恐竜を見て、
「さすがだな、さくら」
まだ生きている二匹目の恐竜の首にリボンを巻きつけて斬り落とした。
竜が自分のお尻を押さえて、
「痛そう。こんな死に方はしたくねぇーな」
さくらは自分の刀を見つめていた。妖刀田中家の刃に、あるものが付着していた。
「竜、、、」
さくらの声が震える。
「刀に、、、」
竜は鼻をつまみながら、
「おい、○ン○付いてるじゃねぇーか!そいつを俺に向けるな!」
さくらが縋りつくように泣き顔で、
「竜の服かリボンで拭いてよ」
竜は断固とした態度で、
「嫌にきまってるだろ!自分の服で拭けよ」
さくらは刀を馬屋の主人に向けて、
「拭いてくれます?」
「ハハハ、嫌ですよ」
馬小屋の主人が、黒王の仇も取れた御礼だと言って、水と食料をくれ、白王と赤王を代金として渡してくれた。
「さくら、これであと一日走れば、師匠の森だ」
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