第4話

 日が落ちる前に縛った段ボールを外の倉庫に持って行った。ここにゴミの収集日までとりあえず置いておくということだ。


 母屋に戻るのに庭の飛び石の上を歩いていると、庭の隅に小さな祠があるのに気付いた。


 普段から参拝習慣のある身としてはどうしても気になってしまう。


 庭を荒らさないように気を付けて祠の方に進む。

 石の台の上に鎮座する小さな祠には三体の狐の置物が置かれていた。


 狐ってことはお稲荷さんか。実家の近くにあるのと同じかな。


 俺の爺さんは信心深い人で、近所の稲荷神社に幼い俺を連れてよく参拝をしていた。


 俺はきっとそういう体験というか習慣から爺さんがいないときでも一人で毎日そこに参拝に行くようになった。こうなってしまうと、辞め時がなくなってしまい、最終的には上京する今朝まで参拝をしていた。


 毎日、参拝して何をお願いしていたかというと、なんてことを願掛けしていた。


 たぶん、五年以上は願掛けをしているから二〇〇〇日は超えているはず。


 これだけ毎日、願掛けしているのに一向に彼女ができないなんて、神様もなかなかいけずだ。


 上京したら、もうそんなことはしなくなると思っていたのに居候先の庭にあるなんてこれも何かの縁かもしれない。


 なにはともあれ、まずはこの家に住まわせてもらうのだから挨拶をしなければバチがあたる。


 二礼二拍手して手を合わせる。

 ――今日からこちらでお世話になる東雲陽です。よろしくお願いします。あと、毎日お願いしている。可愛い彼女ができるについてもそろそろ叶えてくれると嬉しいです。


 挨拶を終えてもう一度礼をすると。


「陽君」


 不意に後ろから声掛けられてドキリとする。


「ゆ、唯花!?」

「段ボール捨てに行ったままなかなか帰ってこないし、庭から手を叩く音が聞こえたから」

「庭に祠があるのが気になって」

「ふーん、何かお願いした? お願い事は声に出した方が叶うらしいよ」


 いたずらな笑みを浮かべる唯花。


 彼女が欲しいなんて言えるわけない。

 せっかく、ゲームをして少し打ち解けたのにそんなこと言ったらドン引きされるに決まっている。


「お願い事ってわけじゃなくて、今日からここで生活するから挨拶しただけ」


 神様、嘘はついていないから許してください。


 再びふーんと言いながら俺の目を見つめる唯花。

 その視線は俺の心の中まで見ているようで、思わずゴクリと唾を飲んでしまう。


「本当? 意外と彼女が欲しいってお願いしてたりして」


 あまりの図星に胸にバスケットボールがぶつかったような衝撃が走る。


「そ、そんなことないよ」


 神様、明日、油揚げもお供えするから許してください。

 ちょっと見栄を張るというか、いろんな意味でそういうことは大きな声で言えないんです。


「陽君って、彼女欲しくないの?」

「欲しいとは思うけど」


 神様の前でこういう尋問って良くないぞ。

 下手な嘘をつくと一生彼女ができなくなるんじゃないかって変に意識するから。


「どんな子が好き? お姉さん系、お嬢様系、妹系、サバサバ系?」

「どうだろ、あまり具体的にこういう人がいいって考えたことないから」

「っていうことは、逆に言うと何でもOK?」

「どんなタイプかってことよりもお互いに大切に思える人かな」


 きっと、外側だけじゃなくて人と人の付き合いだから、最後は気持ちとか思いやりとかってことが大切じゃないかな。

 つーか、真面目に話し過ぎじゃないか。今日会ったばかりの人からこんなこと聞かされても困るだろ。


「なんか優等生的解答――」

「唯花、夕ご飯の準備するから手伝って」


 声のする方を向くと、縁側に美月が立っている。

 唯花は、はーいと返事をすると俺の方から母屋の方に方向転換。


「早く戻らないと。美月を怒らすと怖いからね」


 唯花に続いて母屋の方に戻ろうとすると、唯花が薄く朱に染めた顔をこちらに向けてそっと囁いた。


「陽君、美味しいもの作るから楽しみにしててねっ」

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