第3話

 居候初日から何たる不幸。


 普段からよく神社に参拝しているのにそのご利益を全く感じない。


 美月が母屋に帰った後、残りの片づけをして、段ボールをビニール紐で縛ったところで引越し作業は完了。後はごみの日に段ボールをまとめて出すだけだ。


 古紙を出す日はいつかな。


 美月か唯花に聞こうと思って、母屋の方に向かう。


 リビングまで来ると唯花は初めて会った時と同じようにようにソファーに座って、ゲームをしていた。


 ずっとやっていたのか? ガチ勢?


「東雲さん、お姉ちゃんなら買い物に行って留守です」


 こちらから話し掛ける前に、つーんと冷たい視線が飛んできた。

 美月が誤解は解いとくって言っていたけど、まだ、解けてない気がする。


「いや、美月さんに用事ってわけじゃなくて……」


 テレビに映されている某有名キャラクターを使ったレースゲームの方に目が行く。

 これ、受験前はけっこうやったな。


「このゲーム、できます?」

「まあ、多少はな」


 こちらを見上げる唯花の顔がぱあぁっと明るくなるのがわかった。


「それじゃあ、ちょっと練習相手になってくださいよ」

「お手柔らかに頼む。俺、そんなに上手くないから」


 嘘である。

 このゲームのオンラインのランキングもかなり上位だったし、剃刀の上をすべるようだと言われたコーナリングだってまだ健在なはず。


 ゲームが上手いところを見せれば唯花の評価がちょっとは改善されるんじゃないか。


 ここはウサギを狩る獅子の本気を見せなくては。



 ――三〇分後


「イェーイ! また、わたしの勝ちー」


 ピースサインをしてにこりと歯を見せる唯花。


 ば、馬鹿な。いくらブランクがあるとはいえ、この俺がこんなに連敗するなんて……。


 っていうか、唯花、上手すぎだろ。コース取りやダーボの掛け方、アイテムを使うタイミング、どれも暇つぶしにやってるなんてレベルじゃない。


「唯花さん、相当やり込んでるでしょ」

「そこそこやってます。東雲さんもまあまあ上手いですね。ちなみに他のゲームも上手いですか? ペイントトゥーンとか、スカブラとか」

「そのあたりは昔やってたからそこそこできると思う」


 よしっとガッツポーズをする唯花。


「美月はあまりゲーム得意じゃないから一緒に遊んでくれると嬉しいです」


 美月が唯花は人見知りするからって言っていたから、コミュニケーションが上手く取れるか心配だったけどゲームを通して上手く仲良くなれそうだ。


「あのさ、唯花さん、美月さんから聞いているかもしれないけど、俺たち同い年だから敬語で話さなくてもいいよ」

「……えっと、同い年なのは知っていますが、東雲さんの方が誕生日が早いって聞いていたので……、タメ口で話したら生意気って思わるかと思って」


 人差し指をつんつんと合わせながら上目づかいでこちらを見る唯花。


 さっきまでの冷たい目が雪解けしたようだ。


「別にそんなことで生意気だなんて思わない。むしろ居候の身の俺の方が敬語で話さないといけないかなと思います」

「プッ、東雲さん、急に途中から敬語にするのは変ですよ」


 思わず吹き出す唯花。


「むしろ、唯花さんに今まで敬語で話していなかった無礼をお詫び申し上げたいです」

「OK、わかった。これからは普通に話すよ。あと、唯花でいいよ。その代わり、私も陽……君って呼ぶから」


 どうして、俺の名前には〝君〟を付けるんだなんて思ったけど、そんなことまで聞くのは野暮というものだろう。

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