【だべりぶ#2】生徒会長

【空き教室】


「やあやあよく来てくれたね。とりあえず座りなさいな」

「え、すみません。つかぬことをお伺いしますが……もしかして、あの覆面不審女子高生と同じ方ですか?」

「水野さま、口さんがきたならしいですわ!」

「姫崎さん、それだと口の周りが急に心配になってくるから」

「あら、では……口さんがドブさんですわ!」

「……私、本格的に臭い?」

「あ、ごめんごめん。私としたことがマスク付けてなかったね」

「いま付けられると私に致命的なダメージが入るのでやめてください───生徒会長」

「……この方、生徒会長さんでしたの!?」

「あ、やっぱり姫崎さん知り合いじゃなかったんだ」

「あちゃー、バレちゃったらしょうがない。───そう! アタシこそがこの五十嵐高校の生徒会長なのだった!」


ジャーン


「うわ、セルフ効果音。しかもなんで呼び込み君」

「安心して、個人契約だから」

「呼び込み君って契約あるんだ」

「……あ、そういえばマスクの処分だけど、近所の団体が貰っていってくれたよ。ものすごく喜んでた」

「良かったですわね、会長さま」

「あれ、でもここら辺にプロレス団体なんてあったかな」

「ないね。でもガタイはよかったんだよねー、どこの人たちだったんだろう」

「へぇ───じゃあ、そういうことで私たちは……」

「まあまあ水野、来たばっかなのに帰るなんて生徒会長へ失礼だとは思わないのかな?」

「いいえ全く。どちらかと言えば特に用もなく一般生徒を拘束し続ける生徒会長の方が失礼だと思いますけど」

「いや、用ならあるよ。────部活動にも入らず、かといって勉強するわけでもなく、放課後に学校内を徘徊する問題児2名。これ、君たちのことだよね?」

「……それは───」

「会長さま、それは違うと思いますわ」

「姫崎さん……」

「問題児さん2名ではなく───話題の転校生さん1名と問題児さん1名の間違いですわ。訂正してくださいませ」

「姫崎さん?」

「おっけ、じゃあそれで」

「いかせないからね?」

「まあともかく、そんな噂を聞いたアタシはずっと君たちのことを探してたの。知ってると思うけど、ウチの高校は原則強制入部だしルールを守ってないとそれだけで重い処分の対象になりかねない。だから生徒会長として、警告してあげないとと思って」

「……水野さま、わたくしそんなお話さんは聞いておりませんでしてよ!? どうして教えて下さらなかったんですの!?」

「いや、姫崎さんは転校生だし特例なのかなーと……」

「このまま優柔不断に過ごしているだけで打首獄門さんが待っているというのなら……今すぐにでも部活動さんに入るしかないですわ! ───そういえば会長さまは、どの部活動さんに入っていらっしゃるのですか?」

「あー、えっとアタシは……なんにも入ってなくて」

「え、どういうことですか?」

「いやー、生徒会に入ってると部活が免除になるんだよね。それ目当てで今期の生徒会長選に立候補したら、なんか当選しちゃってさ……あはは」

「うわ、そんな手があったんだ……」

「じゃあ会長さまも───無職さんということですの!?」

「姫崎さん、少なくとも生徒会長ではあるんだから無職ではないと思うよ」

「……いや、もうアタシは生徒会長じゃないんだ」

「え、あんな自己紹介しておいてですか?」

「……ううん? えっと、会長さまは実は生徒会長さんではなくて、水野さまはやらなければならないことから目さんをそらし続けるぐずのろまさんで……い、いったいどういうことですの?」

「私、姫崎さんに何かした?」

「───まあしょうがないっちゃあしょうがないんだよね……。この学校、ド田舎だからさ。まだ1年生のあなたたちにはわからないかもしれないけど、生徒会長選挙なんか所詮お遊びに過ぎないの。ほらアタシって上級生からもそこそこ人気あったからさ、それだけで当選しちゃったのね」

「あなたも確か同級生ですよね? クラスは違いますけど。───それよりも、次の選挙だったら当分先ですよね? どういうことなんですか?」

「えっとね、起きちゃったの。革命」

「はい?」

「それで生徒会長としてのアタシは死んだからさ、プロレスマスクの在庫を抱えてこの空き教室で駄弁ってたってわけ」

「……会長さまに、そんな悲しい過去さんが……ううっ」

「ごめん姫崎さん、私まだ革命の語彙から抜け出せてない。え、革命って起きるものなんですか、しかもこの現代社会のたかが生徒会内部ごときで」

「そりゃもう。ありまくりよ」

「ありまくりなんだ」

「まさか3連続で食らうとは思わなくてさ……」

「……これ大富豪の話だった?」

「都落ちのついでに会長の座から降ろされちゃったよ。ほら、ウチの生徒会って大富豪連動制を採用してるから」

「……あ、大富豪の革命と生徒会内革命が連動してるってこと? 何だそのキモい制度。生徒会入らなくて逆によかったかも」

「これがホントの大 ひぃん 民、ってね!」

「つまんな」

「───ですが、そうなってしまった以上は会長さまも何らかの部活動さんに入らなければいけないのではないですか?」

「そうだねひめっち。もう一度立候補するつもりはないし……元鞘に戻るのもなんか違うし……」

「……! でしたら、この3人で部活動さんを作ってしまうのはいかがですか?」

「私たちで、部活を? そんなことできるの?」

「───学校の規則的にはいけるはずだよ。顧問を置かないとなると非公認の部活っていう立場にはなっちゃうけど、それでも処罰から逃れるためだけなら十分。 ……うん、いけそう! やるならすぐ作ろう! 水野もいいって言ってるし」

「何も言ってないですけど」

「ですが水野さま、水野さまがこのまま打首獄門さんになってしまうのは、わたくし嫌ですわ!」

「さ、流石に極刑まではいかないと思うけど……」

「まあ、入りたい部活が決まるまでの隠れ蓑ってことで。───そんじゃ、明日までに許可どりとかもろもろ終わらせてくるから、今日は解散ってことでー」

「はい! 会長さま、また明日さまにお会いしましょう!」

「うん、バイバイひめっち! あ、水野は明日までに部活の名前と活動内容、それに至った思考内容を2,000文字程度のレポートにまとめてきてね! じゃ!」

「……3連続革命に至った理由、今なら分かる気がする」

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