第2話
雪は入口のひざ下くらいまで積もっていた。
やはり男のいう通り、そのうちにやんだのだろう。
一晩中ふっていたら、こんなものではすまない。
これから下山だ。
その時、聞こえてきた。
幼い女の子の笑い声が。
思わず目をやると、そこにいた。
一人の少女が。
――まさか!
少女は雪山の中だというのに、白い袖なしのワンピースを着ていた。
そしてその顔も腕も足も、やけに白かった。
おまけに雪の上を笑いながら走り回っているのだ。
足元の雪は新雪。
いくら少女の体が軽いといっても、その足が雪にうまらないわけがない。
しかし少女は雪に一切足跡をつけることなく、走り回っているのだ。
まるで固い床の上を走っているかのように。
気が付くと、男が俺の横に立っていた。
とてつもなく険しい顔で少女を見ている。
少女は小屋の前をぐるぐる回っていたが、やがて森に向かって走り出し、その姿を消した。
しばらく唖然としていたが、正気に戻った。
俺は言った。
「見たでしょう。こんなところに小さな女の子のが」
「えっ、なんだって。俺はそんなものは見てないが」
「いやだって、さっきあんなに……」
「いいか。おれはこんな雪山で、小さな女の子なんか見なかった」
「ええ」
「そして、あんたも見なかったんだ」
「ええっ?」
「いいか。もう一度言う。あんたも何も見なかったんだ」
すごい威圧感だ。
俺は思わず言った。
「はい」
「話は決まったな」
男はそう言うと、雪山を歩きだした。
終
白い少女 ツヨシ @kunkunkonkon
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