彼のため

白川津 中々

◾️

旦那が働かなくなり半年が経った。


彼は腕の良い職人で、前は昼夜問わず働き、食事の際も目を輝かせながら仕事の話をするような人間だった。


事態が一変したのはある夏の日。仕事中に怪我をして入院してから。全治三ヶ月。重症だった。

私は、自分でいうのは憚られるけれど、甲斐甲斐しくお世話をしていた。体を洗い、果物を切って、動けない彼の代わりに身を粉にしていた。いつかまた、怪我をする前のように、二人仲良く、なんの憂もない生活ができると私は信じていた。


けれどそれは私の願望であり、願望は願望のままに終わった。旦那は怪我を理由に仕事を辞め、いつまでも「傷跡が痛い」「調子が悪い」と泣き言をいうのだ。


私は「大丈夫、大丈夫だから」と励ましながら今日まで生きてきた。その時間がどれほど無駄であるか知りながら、彼に尽くした。怠惰がもう体中に伝染していると分かっているのに、私は彼を手放す事ができなかった。


そんな内に、赤ちゃんができた。

私は産みたいと懇願した。けれど、彼は許してはくれなかった。


「子供を育てる銭があるなら俺に寄越せ」


彼はそう言って、私に平手をくれた。


結局、子供はおろした。

彼は何も言わずに、お酒を飲んで、寝ているだけだった。


私は何のために生きているんだろう。

考えても答えは出ない。

苦しいまま、彼のために、今日もご飯を作る。


お腹の痛みは、未だ、消えない。

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