第2話 「ゼフ様、すごいです! やっぱり“株”スキルは本物ですね!」

そんなわけで、俺は“株”の使い道を探り始めた。家族や兄たちは相変わらず俺を冷ややかに見ているので、下手に声をかけても無視される。それならば、メイドや使用人、あるいは領内の人々に少しずつ試してみるしかない。しかし、それにはお金も必要だし、魔力だって限度がある。


投資だからこそ“元手”がいるというのが、このスキルのおそらく最大のネックだ。俺は貴族の三男とはいえ、自分で使える自由なお金なんてほとんどない。いや、全くないと言っていい。


「どうするかなぁ……」


とりあえず、少量の魔力を分け与えるだけならコストは低い。むしろこれは何度でもできそうだ。問題は、お金。生活費はあるが、好きに使えるほどの額ではない。父に借りるのは……厳しいだろうな。完全に期待外れ扱いをされている今、融資なんてあり得ない。兄たちも無理だ。


「このスキルが本物なら絶対に大化けするはずなんだ!」


俺の中で不思議な確信がある。胸の奥に燃え上がる情熱。そう、俺は決めた。絶対に“株”スキルで成り上がってみせる。落ちこぼれの汚名なんか返上してやる。いや、それどころかこのスキルで世界だって変えられるんじゃないか……そんな根拠のない自信さえ湧いてくる。


――そうだ。“株”って言葉には「たくさんの人やモノに投資して、その結果として莫大なリターンを得る可能性がある」という響きがするんだ――


もちろん俺は、この世界に“株”という概念がないことを知ったうえで言っている。でも、俺の中にだけ、なぜかその仕組みが自然と理解できるような感覚がある。おそらく、神託の儀式で神が俺に与えたのは、この世界では未知の知識なのだ。


「ゼフ様……お茶が冷めてしまいますよ」


「おっと、悪い悪い。考え事してた」


リリアが淹れてくれた紅茶を啜る。ほっとする香りだ。こんな小さな幸せを感じられるのも、リリアのおかげ。彼女は俺を見捨てなかった唯一の人と言っていい。だからこそ、彼女の成長に俺も貢献して、彼女の夢があるなら叶えさせてやりたい。


そう思っていた矢先に、俺は予想外のチャンスを手にした。ある日、領地内で行われる小さな闘技大会を観にいったのだが、そこでひとりの若者が困っているのを見かけた。


「くそっ……参加費が払えねえ。せっかくここまで来たってのによ……」


見ると、粗末な服装をした剣士の卵のような少年。相当困っているらしい。参加費さえ払えれば、きっと優勝して賞金を得られる自信があるのだろうが、手持ちがなくて参加さえできないようだ。


俺は、閃いた。


「……俺が代わりに参加費を出してやるよ」


「えっ……? お前、貴族様か? なんでそんなことしてくれるんだ?」


「俺には、投資ってやつをやる理由があるんだ。言葉の意味はよくわからなくてもいい。気が向くなら、俺と取引しないか?」


詳しい理屈は後回しでいい。要は、この少年が大会で優勝してくれれば賞金が入る。その一部を俺に返してくれればいいし、さらに俺の“株”スキルで投資をすれば、彼が成長すればするほど俺にもプラスが返ってくる。


「……怪しい話じゃないか?」


「信用できないなら別にいい。でもここでお前が参加できなかったら、何も始まらないぞ」


少年は悩んだが、結局俺の話に乗ることにした。手を握り合って契約成立。大会の参加費を支払うと同時に、魔力を少し流し込む。すると、はっきりと感じた。


――スキルが発動している。


少年の身体が、ほんの少し力強くなったように見える。視線や表情にも自信が戻ってきている。まだ魔力を注ぎ込んだ量は少ないが、それだけでも効果はあるらしい。


結果。少年はトントン拍子に勝ち進み、決勝戦で格上の相手を破って優勝を果たした。さすがは自信があるだけのことはある。俺に返ってきた賞金も、元手よりはるかに多い。さらに驚いたのは――


「うおお……なんだ? やけに力が湧いてくるぞ!」


「そ、それは俺も感じる。なんだか身体の奥から力が溢れ出てきて……」


俺自身も、体が軽く感じられる。まるで魔力容量が増えたみたいだ。少年への投資が成功し、彼が成長した分の“利益”が俺の元に“配当”として返ってきたのだ。正確に数値化はできないが、“あの瞬間”に何かが爆発的に伸びた。


――まさか、こんなにわかりやすく効果が出るとは――


俺は心の中で歓喜した。同時に、これはとてつもない可能性を秘めているのではないかと確信する。“株”スキルの真髄は、複数の人やモノに投資すればするほど拡大し、最終的に莫大なリターンをもたらすことにあるのではないか。


「ゼフ様、すごいです! やっぱり“株”スキルは本物ですね!」


リリアが感激した面持ちで声をかける。俺も嬉しさを隠せない。どうだ、落ちこぼれ扱いしてきた連中め、見返してやる。


俺は急いで地元の小さな闘技大会をさらにチェックしたり、商人たちが商売をする場面に投資したりもしてみることにした。始めはわずかな金額でいい。なぜなら、成功すれば雪だるま式に膨らむからだ。投資額もリターンも、どんどん増えていく可能性がある。


そう。株式投資と同じだ。俺は自分でも驚くほど、その仕組みを直感的に理解している。神から与えられたこの知識が、俺の中で鮮明に形作られているのがわかる。取引先が増えれば“ポートフォリオ”が拡大し、リスクを分散しながらリターンを最大化できる。


「よし……これなら、すぐにでも大きくできるかもしれない!」


胸の鼓動が高鳴る。落ちこぼれのまま埋もれるつもりはもうない。絶対に俺はのし上がってみせる。見ていろ、兄たち。そして父上。お前たちが呆れ返るほどの成果を、俺は見せつけてやる。


――こうして俺は、“株”のスキルにより人生を逆転させる大きな一歩を踏み出したのだ。

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