第3話 交渉

 私はその一風変わった光景を椅子に座りながら好奇の目で観察していた。「どう?お姉ちゃん1リットル3万円」、「いやいや500で3万円はどう?」、「おじいさん、2リットル10万でどう?俺のは活きが良いよ」室内では全くもって意味不明な会話が飛び交っていた。しばらくして、状況理解に困惑する私に一人の老婆が近づいてきた。「あんた、もしかして新人かい?あんたここが何をする場所かわかって来てないんかい?」わたしはその老婆の圧に押され、言葉が出ず、首を縦に振るしかなかった。

「そうかいな、まあそんなことどうでもええわ、あんたところでさお金ほしくないかい?私にあんたの血を売ってくれんかい?」老婆のとんでもない発言に私は耳を疑ったが、その顔はとても真剣に私の血を求めているようであった。そして、しまいには私の腕を掴みだすのであった。私は老婆のその恐ろしい言動に、頭がパニック状態になり、ただその場に何もできず立ち尽くすばかりであった。そして、そのおばあさんに続くかのようにどんどん他の老人達が私の周りを囲み始めるのであった。その内の一人の恰幅のいいおじいさんが私の肩を馴れ馴れしく触ってきた。「おお、活きのいいガキじゃな、どうじゃ3リットル5万でどうだい?まあ、一気にそんな採ったら死んじまうだけどな」笑えない冗談であった。そして、それに呼応するかのようにあるお婆さんの恐ろしい言葉が私に降りかかる。「おいおい、げんさん、この前あんたが契約した子、血を取られすぎて寝たきりになっちゃったじゃん、この子もそうさせたいのかな」私を取り囲む老人たちの到底理解はできない言葉に私の心はもう壊れる寸前であった。そしてそんな私にトドメを刺すかのように「ねえお願い、あんたの血ちょうだい、、2リットルだけでもいいからのお」と私の手を掴んでいたおばあちゃんがますます私にその体を近づけてきたのだ。本当の意味で血の気が完全に引いた私はここでとうとう防衛本能が働いたようだ。無心になり、おばあさんの手を振り払い、私を囲んでいた老人を腕でかき分けて全力でその場から逃げ出したのだ。裏口に行く途中、私はどこかから強烈な視線を感じた。そうそれは初めに私を案内してくれた看護師らしき人のものであった。彼女は私を追おうとはせず、さっきっ見せた笑顔とは正反対のとても恐ろしく憎悪のこもった表情をにじませていた。私はその視線にさらなる緊迫感を感じながら、ひたすら裏口を目指した。

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