①綺麗な三日月が輝く空の下で

第1話

【ちょっと早く着いちゃうかも……】


【中で待ってればいいだろ】


【じゃぁ、そうします】




【水翔さん】


【何?】


【やっぱり、後でいいです】




相変わらずそっけないなぁ、お仕事中だから仕方ないけど。


スマートフォン片手に信号待ちをしていた私は、しかめっ面でメールを打つ彼を想像して苦笑する。


絵文字とかスタンプとか一切使わないから怒ってるのかな?って思う時がたまにあるけど、案外そんなことはなくて。


それどころか、




【気をつけて来いよ】




何気ない一言にでも、優しさが溢れているんだ。


届いた文字に「はぁーい」と返事をした私は、急ぎ足で横断歩道を渡りきった。


以前は駅を降りてからレンガの坂を上っていたけど、今日は閑静な住宅街の中へと。


道が入り組んでいるから迷子にならないか?と水翔さんは心配してくれていたけど、思いの他スムーズに彼の職場へと向かうことができた。


初めての場所だから、少し緊張する。


だけど、このドアの向こうに彼が居ると思うと心臓が高鳴る。


早く会いたい。

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