第10話 「巨神ゴーグ」(ジャイアント・ゴーグ)について!

 今回は、どうしてもこの作品は先に書いてしまいたい、私のイチオシ作品に触れたいと思います。

 と言うのもこの作品、前後左右にあまり関連しているものがなく、極めて独立的な名作と言えるからです。 

 と言いますのも、この作品の監督は誰もが知っている人なのですが、この作品以外にほとんど監督をされておらず、また、その理由が、本作の人気不振にあった、という可哀想な作品という事情があります。

タイトルを書いて、どれくらいの人が解るんだろうか、と言う状況ですが


巨神ジャイアントゴーグ」


 と言います。

 ・・・・解りますか? 

 wikiると


『巨神ゴーグ』(ジャイアントゴーグ、GIANT GORG)は、日本サンライズ制作のSFアニメ(ロボットアニメ)。1984年4月5日から同年9月27日までテレビ東京系で毎週木曜日19:00 - 19:30の枠にて全26話が放送された。


 とあります。

 先ほど前後左右と言う言い方をしましたが、この後番組は、なんとも子供騙しなコアラの物語で、それこそ知っている人がいるのか? と言う感じです。

 そして、時間帯が一応ゴールデンながら、毎週木曜日のテレビ東京枠・・・・なんとなくですが、このレベルのアニメを、この時間帯に流すんだ? って感じでした。

 まあ、この11年後には、エヴァンゲリオンを水曜日の夕方放送したぐらいですから、テレビ東京は度胸が据わっているなと感じます。

 そして、この作品の監督ですが、安彦良和さんです。

 ね、凄くないですか?

 安彦良和さんと言えば、もうキャラクターが物凄く魅力的なアニメータでした。

 古い時代で言えば「ライディーン」あたりから、もうキャラデザやっていたと思います。

 「コンバトラーⅤ」の南原ちずるあたりで、とにかく魅力的な女性を描く人だな、と感じていましたが、70年代のロボットアニメでは安彦さんのアニメキャラで育った人も多いのでは、と思います。

 正直、今見てもキャラクターは輝いていて、絵柄が古いだけで、基本的なデザインは劣化した感じがしません。50年も前に、日本のアニメはあれあけ魅力的なキャラクターを使って物語を描いていたんだと、感心してしまいます。

 こうして、アニメーターやキャラデザの印象が強い安彦氏ですが、監督としての名前って、あまり知らない、と言う人がほとんどではないでしょうか。

 最近ではようやくガンダム・オリジンで名前が出て来ていますが、オリジンを見ていて「ゴーグ」っぽいと微笑んだ人、どれくらいいるのでしょうか。

 とにかく役割分担が凄まじく、原作、監督、レイアウト、キャラクターデザイン、メイン・メカデザイン、作画監督を安彦良和氏が一人で手がけ、事実上ご本人の完全オリジナル作品と言える作品です。

 メカニックデザインのサブで佐藤元さんと永野護さんが加わっていて、永野さんは、この頃ってファイブスターもこれからの時期だったような・・。

 これだけの才能が力を入れて作った作品ですので、贔屓目無しに作画は本当に素晴らしく、設定も実に緻密で、この作品を境にミリタリーファンになった人、多いんじゃないでしょうか。

 物語は、完全なSFアニメですが、遺跡や宇宙人、謎と言う私が大好きな要素を多く含んでいました。

 物語の舞台となるのは、サモア諸島東南2000キロにあるとされた架空の島“オウストラル島”です。

 この島は、元々あった島が海底火山の噴火によって巨大化した、と言う、当時はそんな事無いだろ、と思っていましたが、近年になって西ノ島がそんな感じで巨大化しているので、ニュースを激熱に見ていました。 

 そして、この島には多くの謎があります。特に、古代遺跡と失われたテクノロジーを求めて、巨大複合企業“GAIL”(ガイル)が、地図からその名を消去させてしまいます。

 主人公の田神悠宇(たがみ ゆう)の父親は、この謎多き島の解明を進める考古学者でしたが、謎の死を遂げます。

 島の秘密を探るべく主人公は、亡き父の遺志を継ぎ、父の友人ドクター・ウェィブとその妹ドリスを訪ねて、アメリカへわたり、この兄妹と共に、ウェイブの友人で「船長」と名乗る男の手を借り、島に向かうのです。

 ちなみに、主人公田神悠宇の声を田中真弓さんが担当されていて、元気な男の子≒田中さん、みたいな時代でしたね。

 また、妹のドリスがとにかく可愛くて、このキャラクター考えた安彦さんって、天才だな、と思っていました。(もちろん、主人公のヒロインです!!)

 また、この古代のテクノロジーを狙っているのはGAILだけではなく、レディ・リンクス率いるギャング団“クーガー・コネクション”もこの謎に迫ります。

 このレディ・リンクスの声を担当されていたのが高島雅羅さん(声優の銀河万丈さんの奥様ですね)で、赤毛のアンでは、ヒロイン的役割だったダイアナの声をされていました・・・・キャラが違い過ぎて、最初全く気付きませんでしたが・・。

 こうして島に降り立った悠宇たちだですが、突然、謎の怪物に襲われます。そして、この怪物から主人公一行を守ってくれたのが青い巨大ロボット「ゴーグ」です。

 ・・・・たしか、これが第4話くらいだったと思うのですが・・番組タイトルになっている「巨神ゴーグ」が、なんと当初の3話、全く出てこない、と言う当時としてはかなりシブい攻め方をしていました。

 今なら、そんな始まりって沢山ありますが、当時の、特にロボットアニメが、第1話に主役のロボットが出てこないなんてことは考えられない時代、ここまでミステリーと冒険に特化してストーリーを練っていた作品って、無いんじゃないかって思います。あのエヴァですら、一応第1話から出て来てはいますので。

 私はこの作品の作り方に、とにかく痺れてしまい、本当に毎週楽しみにしていました。 

 そして本作も、面白くない回が一話たりともない、と言うアニメです。

 主人公一行と巨大ロボット「ゴーグ」は、その後船長が調達した「キャリアビーグル」と言う巨大な戦車のような乗り物で共に旅をします。

 こういう所も独特で、巨大ロボが、主人公を乗せなくても自分の意思で行動できる、と言う今で言うAI搭載型のような特性があるため、主人公は旅の間、ほとんどゴーグに乗る事なく、キャリアビーグルの中で移動するのです。

 このキャリアビーグル、私は戦車って大きいんだな、と当時思っていましたが、敵となって戦う企業「GAIL」は、彼らを追い詰めるのに、実在する戦車を使用していました。

 それが、現イスラエル軍が使用する戦車「メルカバ」です。

 今見ても、ガザに侵攻しているあのメルカバが1984年のアニメ作品の中にしっかりと出て来ていて、その先見の明には驚かされます。

 当時の主力級戦車で、メルカバほどモデルチェンジしていないものは少ないと思います。

 また、出てくる武器や装備が、当時最新の実在するものばかりで、とにかく細かく拘り抜いて設定が作られていました。

 この戦車が、とても小さく見えるほどにキャリアビーグルは大きくて、これ、今なら解りますが、戦車は「大砲を動かすために車両がある」に対して「キャンピングカーに大砲を積んだ車」がキャリアビーグルです。

 この乗り物は、居住性がとても良く憧れでした。大人になってキャンピングカー買ったりしたのも、この辺が影響していると思います。

 で、結論から言ってしまえば、この「ゴーグ」、古代に地球にやって来た異星人の遺物で、異星人と考古学と言う考えも、本当にゾクゾクしました。


 さて、これだけハイクオリティーで、素晴らしい名作、どうして続編や、安彦監督の次回作は出なかったのでしょうか。


 それが、先にも触れた、「ロボットアニメならこう」という王道から外れた変化球の部分が、子供にあまりヒットしなかった、と言うことなのです。

 えー、あんなに面白いのに?

 でも、当時の子供は、第1話から正義のロボットは悪のマシーンを豪快に叩き潰すのが仕事でしたから、ここまで活躍しない主役ロボットが響かなかったようです。

 そのため、本作は商業的には大失敗、と言うレッテルを貼られます。

 まだDVDが無い時代、商業的な成功のバロメーターは、玩具の売り上げです。

 そう、売れなかったのです。

 子供がロボットごっこをする時は、大体主役のロボが敵役を倒す、と言う図式で玩具が売れるのですが・・・・明確な敵役がなんなのかも見えにくく、まさか実在する戦車メルカバを倒すロボット・・たしかに遊びにくいのかなあと。

 それでも、私にとってあれほどの作品はなかなかありません。 

 そう言う、ある種の商業主義を廃してしまったために、人気が出なかった。

 そして、このゴーグの失敗を受けて、安彦監督は、それ以降監督業から遠退いてしまいます。

 ただ、あれだけの作品を一人で作り上げてしまうほどの人物、その後は漫画家へと転身し、大成功します。

 そうして月日が経過し、次に安彦氏が監督をするのはガンダム・オリジンを待たなくてはなりません。

 他に、輝かしい功績を多く残されている安彦氏だけに、経歴の中にこの「ゴーグ」が取り上げられることも少なく、やはりその後、漫画家として成功されたあとのオリジンなどの注目が高く、「巨神ゴーグ」は埋もれた名作となってしまいました。

 DVDも、レンタルすら置いている店が少なく、DVDボックスが記念で販売された以外、暫く聞きませんでした(ブルーレーイボックスが近年発売されたようですが)


 こうして再放送もDVDもほとんど見かけることのない作品ながら、この作品では後にエヴァの主人公の父親「碇ゲンドウ」役で有名になった立木文彦さんなども、この作品でデビューしています(てっきりパトレイバーのブチ山さんだと思っていましたが)。

 

 この作品を含めて、深夜の再放送でも十分に数字を取れそうな作品って、結構埋もれていると思います。 

 特に、この「ゴーグ」は、私にとって、世間が認めてくれなかった幻の名作として極めて高く評価する作品です。

 

 もし、この作品を見る機会に恵まれた方、絶対にお勧めですので、是非ご覧ください!!


 

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