第四話【拠点到着、あれが我らのヒッポグリフ島!】
――あっという間に一ヵ月が経過した。
グリフォン飛行船団は今日も賑やか、歌って遊んで働く船員達。
今日も楽しく空の旅を満喫している。
飛行船団の一隻「リンドウルム号」のブリッジにて。
船長のエルリッヒ・フォル・ゲーテルライヒは、念入りに書類を確認している。
あまりにも集中して確認しているからか、船員達は遠慮して話をしてこない。
「どうした船長、そんな顔をしていたらまた子供が逃げるぞ?」
副船長のミハイル・ブラインが遠慮せずに話しかける。
エルリッヒは「また集中し過ぎたか」と自己反省を行う。
船長であるエルリッヒは大の子供好きなのだが、顔が怖いことから逃げられてしまう事が多いのだ。 話せば優しい中年なのだが、外見が厳つい強面ゲルマング人なのだから子供が怖がるのも無理はない。
「はっはっは! まあ勤勉なのは良いことなんじゃあないか?」
「そう言ってもらえると助かる・・・・・・」
「我らが船団は、拠点であるヒッポグリフ島に到着だ。 どうだ? 久しぶりに俺と釣りでもしないか?」
「む、それは良いな。 どれだけ釣れるか競うとするか・・・・・・、ルドルフもどうだ?」
エルリッヒは通信長ルドルフ・カーリックを釣りへと誘う。
この三人は同じゲルマング王国の出身で幼馴染である。
三人とも空に憧れてベリスと出会った後に、グリフォン飛行船団を立ち上げた際のメンバーとなった。
「そりゃ楽しそうだな。 拠点に着いたら通信員はあまりする事がないからな、喜んで釣りに付き合おう」
「島に着くのが楽しみだなぁ」
三人はブリッジから海を眺めた。 世界中全ての飛行船団は、拠点となる島を必ず所有している。 世界飛行船団連盟で決まっている法律なのだ。
――旗船グリフォン号。
すっかり見張り員として定着していたラインハルトは、見張り交代の時間となって部屋で休んでいた。
フローレスに淹れてもらった紅茶をゆっくりと飲んでいた。
それと同時に一冊の本を開いて、あるページを読んでいた。
「ラインハルト様。 どんな本を読んでいるのですか?」
気になってフローレスが口を開く。
ラインハルトは読んでいる本の表紙を彼女に見せる。
本には「空想世界の歴史」というタイトルが書かれている。
「空想世界……?」
フローレスは表紙に描かれている空想の世界地図を見て不思議に思った。
所々の大陸や島国の形が似ているのだ。
「これはね、母さんが昔よく読んでくれた本なんだ」
――ラインハルトは本の内容を教える。
コサック共和国の著名な空想作家であるロマノフル・ドブルコスキーが、数十年をかけて書き上げた本であった。
本の売り上げは赤字という結果で終わったが、ゲールバッハ家は本を読みふける程に気にっていた。
舞台はこの世界とは違う空想の世界の歴史。
恐竜時代から古代文明に石器時代と続いて、名前で分けて詳細に書かれている。
ラインハルトはページに描かれる巨大な生物を指にさす。
「これは、どういった生物なのですか?」
「空想の生物で「恐竜」って言うんだって。 他にも……ほら、空想の世界地図は海がそこまで広くないでしょ?」
「本当ですね、ですが地図に描かれてるこの島国って……ブリテー王国に似てますね。 此処とかは大和皇国にそっくりです」
「そこらへんが不思議なんだよねぇ。 最期のページに書かれたロマノフルの言葉が妙に気になるんだよ」
空想作家ロマノフルが本に記した内容は、世間には理解しがたいものであった。
『――私は夢の中で違う世界のとある国家にいた。 我々のいた世界と瓜二つと思う程の発展した街並みが目の前にあった。 その国家はイギリスと呼ばれていた。 しかし我々の世界とは絶対的に違うものがあった。 それは技術、我々の世界より航空技術は劣っていた。 しかし逆に海軍技術が我等よりも遥かに凌駕していたのだ。 そもそも、種族が人間しかいないのだ。 私はそれが一番驚愕したのだ』
「これは……」
「虚言だと世間は言ってるけども、ロマノフルは三年も前に病気で亡くなってるから真相は誰にも分からないんだよね」
軽く頭を搔きながら本を閉じる。
本棚にしまい、ラインハルトは窓を覗く。
「……んん? ねえフローレス、もしかしてあの島が拠点?」
「はい。 あの島こそがグリフォン飛行船団の拠点である「ヒッポグリフ島」です」
「あれがそうか……!!」
その時、船内の放送が聞こえてくる。
声の主はベリスのようだ。
『諸君! いよいよ拠点に到着する、休憩中の船員は先に荷物をまとめておきたまえ!』
「遂に僕もヒッポグリフ島に行くのかー!」
「よかったですね」
喜ぶラインハルトを見て、フローレスはニコリと微笑んだ。
そうと決まればと慌てて荷物をまとめ始める。
「フローレスも準備をしてきていいよ! また後で会おう!」
「かしこまりました。 では失礼します」
お辞儀をしてフローレスは部屋を後にする。
実は彼女も内心は第二の故郷である拠点に帰れるのを楽しみにしていたのだ。
通常よりも気分よく自身の部屋に戻っていく。
――船団は無事、ヒッポグリフ島へ到着した。
島にいた船員達は急いで駆けつけて、帰ってきたベリス達に挨拶をする。
「団長、お久しぶりです!!」
ヒッポグリフ島管理人グスタフ・オーグレーンが元気に声を出す。
あまりにも大きな声でベリスの耳は破壊される。
「あ、ああ……久しぶりだなグスタフ」
「それと……貴方がラインハルト君ですね!! 事前に聞いておりました!! 島の管理人のグスタフです、よろしくお願いします!!」
「グスタフさんですね、これからよろしくお願いします」
周囲の耳さえ破壊する声量なのだが、ラインハルトはニコリと笑顔の状態で握手をし始めた。 あの声量で動じないラインハルトを見て、ベリス含めた船員達が目を見開く。 後にベリスは「彼は将来大物になる」とレオナルドに話している。
「ま、まあ。 島での住居を紹介するから、ラインハルトはついてきたまえ」
「はい。 前々から聞いてましたけど……良いんですか?」
「君は入団してまだ見習いだが他に劣らず、むしろそれ以上に働いている。 一回り大きい家の方が貴族としてもリラックスできるはずだ」
ヒッポグリフ島の中央の街にベリス含めた船員達の住居が存在している。
共同生活を送る船員もいれば一人で暮らす船員もいる。
グリフォン飛行船団の高収入は船員達の労働の結晶、ベリスはそれを理解していた。 なので一人残さず平和で幸せな生活を与えたい、それが団長であるベリスの考えであった。
「ついたぞ。 此処が君の住居だ」
――ラインハルトに用意された住居。
近くにある船員の住居よりも一回り大きく、ゲルマング王国の建物に近い外見。
庭も少し広く、他の住居よりも遥かに立派であった。
ラインハルトは想像していた建物よりも立派だった事を驚いている。
「どうだ。 驚いただろう? 因みにフローレスの住居の近所だから、困った事があれば彼女に聞くように」
そう伝えてベリスは去っていった。
残ったのはラインハルトだけ。 仕方がないので荷物を家に運ぶ。
しかしその後、たまたま近所であった見張り員仲間が荷物運びを手伝ったので、暮らしの準備はスムーズに完了したのだった。
「――それにしても、いくら元々貴族とはいえ広すぎないかなぁ」
家の中でゆっくりしながら室内の広さを確認する。
苦笑いしつつも、せっかく頂いた住居なので大事にしようと考えた。
船団の基礎を覚えたり、見張りの訓練をしたりなど多忙ではあるが、しばらくは拠点で休息するとベリスも言っていたので今後の予定なども決めようとする。
「確か結構色んな店もあるらしいから、後で確認しに行くのもありだな」
世界全ての飛行船団で共通するのが独自通貨である。
世界飛行船団連盟が発行している「シップ」が名称の通貨は、飛行船団の団長が船員達に給料として与えるよう決められている。
大航空時代の中で独自通貨であるシップは、汎用しやすさも相まって世界中全ての店舗で使用できるのだ。
もちろんこのヒッポグリフ島でも使用する機会は非常に多い。
むしろ船員達は、殆どこの島でしか通貨を利用していないのだ。
住居もいくら船団の拠点だからといって無料で利用していいはずがない。
船員一人の住居に掛かる費用は月に二万シップ(大和皇国の通貨で例えると三万五千円)必要である。
そして一般的な船員の給料は十四万シップと他の船団よりも比較的に高い額であった。 ラインハルトも一ヵ月経過したので同じ額をベリスから受け取っている。
ヒッポグリフ島の中央にある街には他国から取り寄せた書店に図書館・道具屋や薬屋・出店が存在する。
更には病院・運動場・娯楽施設までもあるのだから最早小さな国家である。
グリフォン飛行船団が世界でも有数の精鋭飛行船団だからこそ、この拠点の維持が可能なのだ。
「生活で困るところはー……無さそうだなこりゃ」
飛行船団は基本的に交代制なので、次は拠点で留守番となっている。
とりあえず此処での生活を覚えようというのが、ラインハルトの優先的な考えであった。 幸いにも団長であるベリスも今回は休みらしい。
流石のベリスも休暇が無くては倒れてしまう、だったら信頼できる代理と交代して休みたいとのこと。
「……正直僕も疲れて眠くなってきたなぁ。 少し寝ようかな」
一人旅をしてきたラインハルトも疲れには勝てない。
睡魔が急激に襲ってきたからか、ベッドがある方へ一直線に歩いて行った。
そしてベッドにゴロンと寝っ転がり、瞳を閉じた。
時刻は既に夜の十時半。 ラインハルトは一瞬のうちに夢の世界へと入っていったのであった……。
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