第2話 好転

 我が人生を振り返ると、自分の汗に私は人生をめちゃくちゃにされてきた。人より汗っかきな私は常にどこに行っても汗だくであり、よく周りから汚い人と罵られてきた。それがきっかけでいじめられたりもした。真冬でも少し体温が上がると額から滝のように流れる汗は自分を呆れさせるぐらい、自分に強烈な負のイメージを作り上げた。様々な人生のステージで私は汗をかくだけでなく、その汗に恥もかかかされてきたのだ。すっかり、自信を失った私は今では無職で何をすることにも億劫な引きこもりだ。

 しかし、神様というのはいるわけで、まさかこの忌々しい汗を人生逆転の契機に変えてくれるなんて思いもしなかった。これから私はこの汗のおかげで大金持ちになれる、誰からも馬鹿にされることもない、むしろ神経難病に苦しむ人を助ける光になれるわけなのである。そして、なにより自分の汗に誇りが持てるのである。私は昂る心を抑えきれず、気づいたらSNSで合格通知書をアップロードしていた。

 アップロードをして数分後には数え切れないほどのフォローワーの申請がきた。1日でフォローワーが7人から10万人まで増えたほどだ。メッセージも大量に来た。そこには自分を褒め称える言葉、感謝をする言葉、嫉妬する言葉などで溢れていた。中には過去に私を振った女性や私をからかってきた人達からも手のひら返しのメッセージが来ていた。テレビ局や出版社からも多くのダイレクトメールが届き、取材の依頼も多数来た。私は正に時の人となっていたのだ。合格通知が来た日、私は嬉しさで興奮してなかなか眠ることができなかった。

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