宴の残り火 2章ルーシー 第1話
プロローグ
ここはかつて村のあった場所。
焼かれて土台しかない家の跡・・・
草は茂り人の姿は見えない。
風の音、虫の音がふと途絶える。
地面に星空が広がる。
その上に球形の星空が現れ、やがて人の姿を取る・・・
長い髪のワンピースを着た少女・・・
突然星空が弾け、少女が現れる。
スタッと降り、周りを見渡す。
「ここに、ねいねいがいる。」
ルーシーがにこおっと笑った。
街
「クロちゃん。」
ヤタガラスが飛び立つ。
やがて情報が来て、ルーシーは人のいる街を目指して歩き始める。
「ナナちゃん。」
サラマンダーが現れる。
額から燃える目が開く。
屈強な武士が現れる。
右眼に刀の鍔を使った眼帯をしている。
「とおちゃん。」
「ああ、行こうか。
しかし、わしが一緒に行く時は荒野が多いな。」
二人で歩き出す。
「ルーシー、ここにお前の姉がいるというのは本当なのか?」
ルーシーはこくんと頷く。
「感じるの。
ルーシーと違うルーシーの反応がある・・・」
ピッと、
「僕にも反応があるね。
それにこの辺りにかすかに放射線反応もある。
ストロンチウム・・・戦術核でも使ったんだろうか・・・
恐らく数十年は前だろうけど・・・」
「・・・古戦場か?」
「まあ、僕達には影響ないけどさっさと通過するに限るよ。」
進んでいくと大きな城塞都市が見える。
大きな門の前に兵がいる。
事前にクロちゃんが街に入り言語はダウンロード済みだ。
「旅人か?」
「ああ、人を探している。」
「荒野を抜けて?」
「そうだが、何かあるのか?」
「どうやら何も知らない様だな。
この辺りは最近は出なかったが吸血鬼が夜にうろつくんだ。
あんたら運が良かったな。
まあ、真っ昼間にこうしてきたんだ。
検査はしなくてもいいだろう。
さあ、入りな。
「すまんな。」
二人は街に入る。
両替商を探して入り、持っている金で貨幣を両替してもらう。
そのまま食堂を探して店に入る。
食事を済ませ、店を出て取り敢えず宿屋に行く。
晩御飯を頼んでおいて、再度街に出る。
教会の前で機動甲冑の騎士を見る。
「あれ動力付きの甲冑だよ。
中にはどうやら僕達の技術が使われてるね、あれは外見はともかく仕様は多分エロジジイの作ってたルーシファーのオプションじゃないだろうか?
ねえ、どう思う?」
「・・・多分な・・・ワシの教え子の「作品」だと思う。
確かルーシファー初期に行方不明になった博士じゃないだろうか?」
教会の人に聞いてみる。
「ねえ、あれなあに。」
「ああ、昔この国に吸血鬼が出て国の半分が吸血鬼に奪われたんだよ。
その時に5人の魔女が現れて、この機動甲冑を作り
そして、ジャンヌ様が現れてこの国を救ってくれたのさ。」
「ジャンヌさま?」
「オルレアンの乙女と呼ばれ、純白の機動甲冑を着てこの国を救ってくれたお方さ。」
「どこにいるの?」
「それは・・・もうこの世にいないのさ・・・」
「何かいいずらそうだったな・・・」
トコトコと教会の中に入る。
大広間に絵が飾ってある。
機動甲冑を着た白い騎士と黒い騎士・・
白い騎士は女性・・・ルーシーの面影がある・・・
「うーん、これはやっぱり・・・」
ハカセが、呟くと、
「おねえちゃん・・・」
十兵衛も、
「そっくりじゃのう。」
ルーシーは通りがかった神父様に、
「ねえ、まじょはどこにいるの?」
「ああ、生き残っている機動甲冑の騎士の面倒を見る為、騎士団にいるというのは聞いたことがありますね。」
「この街?」
「ここにもいるそうです。」
「ありがと。」
騎士団に向かう。
入り口で、
「たのもーっ!」
十兵衛が、
「いつも思うがそれでは道場破りだぞ・・・」
「ルーシー、まじょに会いたい。」
兵は十兵衛を見て、若干訝しがるがルーシーを見てまあいいかと、魔女に取次ぎをする。
以外にもすんなりと会ってくれるそうだ。
老婆の姿でいかにもと言う雰囲気の魔女が現れる。
「本当なら会わないが、可愛い子供と聞いてね。
どれどれ、・・!」
みるみる顔色が変わり、顔がこわばる。
「・・・ジャンヌ・・・いえ、ルーシファー!」
マリエル
「なんで?ルーシーの事知ってる?」
「・・・ルーシー?じゃあ、ジャンヌの言ってた妹があなた・・・」
「おねえちゃんはどこ?」
「・・・死んだわ・・もう40年になる・・・」
首を傾げるルーシー。
「おねえちゃんしんだ?」
「・・・そう。
神様の声が聞こえたと嘘を言った罪で、火あぶりの刑にされたの。」
また首を傾げるルーシー。
「・・・え?うん・・・
はい、あげる。」
小さなイヤホン状のものを魔女に渡す。
つけてみると、
「久しぶりじゃの、マリエルじゃな。」
「この声は、ハルペルシュタット博士ですか?」
「ああ、この子の中に搭載されているAIの一系統だ。」
「いいえ。
AIでは、この声に不快感は感じません。
本物のエロジジイですね?」
「・・・悪かったのう。
ワシそんなに評判悪かった?」
「ええ、それはもう。」
「はっきり言うのう。
それで、お前達はワシ等の世界では、プロジェクト・ルーシファーの初期に5人、輸送機ごと、行方不明になったと聞いた。
当時は、テロリストの制空権を飛行中だった為撃墜されたのだろうとの見解だった。
だが、ここに跳ばされて生きていたという訳か・・
何故、ルーシファーのオプションの機動外骨格を直接パイロットに接続するという馬鹿な真似をしとるんじゃ?
何故こんな外道な真似をする?
言ったはずじゃ。
兵器の本質はいかに楽して相手を殲滅できるかじゃ。
戦う前から自軍の兵を害してなんとする?」
「・・・吸血鬼の為です。
跳ばされた時、この国は半分が突如として現れた吸血鬼に蹂躙されました。
それで、一緒に居たフィフス博士に提案されて、やむなく・・・」
「フィフスか・・・あ奴ら、「ナイア・シリーズ」は好かん。
人間の命を軽視するからな。
最も自分の命さえも、な。
それで残りの魔女は?」
マリエルは、
「フィフス博士は吸血鬼の決戦で、亡くなりました。
ニキは、13年前に病で亡くなっています。
その後、サリアと君江は連絡が取れなくなりました。
行方不明です。」
「そうか・・・で、お前はここに残って機動甲冑の騎士とやらのメンテナンスを行っていると・・・」
「・・・私は騎士たちにせめてもの償いにと・・・」
「・・・悪かった。
選択肢はそうなかったのじゃろうな・・・
だが、偽情報に踊らされ過ぎじゃ・・・」
「それは?・・・一体?」
「お前達が打ち上げた衛星、おそらく打ち上げ直後からハッキングを受けて、ジャックされているぞ・・・
最終決戦とやらの時に、一時的にコントロールを返されただけじゃ。
のう、ワシらと暫くともに来い。
真実を知りたかったらな。」
「・・・判りました。
博士とご一緒させてください。」
「マリちゃん、よろしくね。」
ルーシーが、にこおっと笑った。
残りの魔女
「ちょっと、今回は僕が表だからね。」
「分かった分かった。
ちょっとくらいいいじゃろうて・・・」
「やれやれ・・・まあ、私達も知り合いと話すのは久しぶりだから、気持ちはわかるがね。」
マリエルは、呆然として呟く。
「・・・ヲタク博士、カーター博士。」
「・・・妻とナナ博士は、今はいないがね・・・」
「・・・そうですか。」
ルーシーが、
「ねえマリちゃん、おねえちゃんはどこ?」
「いえ、亡くなったとしか私には・・・」
「他の魔女は?
何か知っている可能性は?」
ヲタクが訊ねる。
「さあ、私には何とも・・只、君江は何か知っているかも。
彼女はジル・ド・レェを探しているといっていました。」
「・・・彼女は僕の生徒でもあったからね。
じゃあ、彼女を探すとしようかな。」
旅立ち
マリエルは、助手たちに後のメンテナンスを託すと、
とおちゃんを紹介され、三人で馬車に乗る。
目指すは、ジル・ド・レェの元領地。
彼はジャンヌの死後、そこに逃げ込んだと伝えられているが、その後領地の周辺を吸血鬼がはびこるようになり、領地に行く者もいなくなった為、行方は定かではない。
生き残っている人がいるかどうかすら分からない。
馬車の御者に十兵衛が座る。
隣にルーシー。
マリエルが一人座ると、フードで顔を隠した老婆が二人やってくる。
腰が曲がり、大きな杖を持っている。
白髪・・・いや、銀の髪だ。
マリエルは、
「あの、この馬車は乗り合いでは・・・」
「知っている、ドクター・マリエル。」
はっきりした若い声。
首をあげた二人。
そこには、ジャンヌと同じ顔を持つ二人がいた。
「ジャンヌ・・・」
「アインとツヴァイ、この子達がルーシファー、だ。」
ハカセが、言うと、
「アイお姉ちゃんとヴァイお姉ちゃんだよ。
ジャンヌおねえちゃんと、そろうのたのしみ~。」
ルーシーが、にこおっと笑った。
馬車に5人が乗り、門に向かう。
門番がルーシーを見て不思議がるも、
「魔女様、どこに行かれます?」
「北の村に急患が出たとのことで、急ぎ向かいます。
門を開けてください。」
「分かりました。
お気をつけて。」
「ありがとう。」
こうして、5人の旅が始まる。
襲撃
街を出て1時間も過ぎる頃、道が森に入る。
ルーシーが、
「何か来る。
距離3キロ。
数20。」
馬車のアインとツヴァイは瞬時に戦闘服に変わる。
4つの光る右眼。
更に、銀毛の馬迄・・・
「ルーシー、まず吸血鬼を調べてみたい。
動きを止めてくれ。
アインとツヴァイは動かないでくれ。」
二人が、
「了解した。」
「い~よ。」
ルーシーが、星空を伸ばす。
「捕まえた~。
クロちゃん。」
地面に星空が伸びると同時に吸血鬼が動かなくなる。
と、同時に星空からぬっと、銀色の烏が浮き上がる。
紅い右眼が輝く。
「ふーん。
何か吸血鬼っていうよりゾンビみたいだね。
不死身とは程遠いし生命活動は無し。
感染に近い経路で増えるみたいだし。
・・・ウイルス反応。
やっぱり、根本的に吸血鬼とは言えないよ。
ウイルスの情報が吸血鬼の一部を使っているという位だね。」
マリエルが、
「そこまで分析できるのですか・・・」
「君に聞いた話だとある程度は吸血鬼がコントロール出来るみたいだね。
恐らくは脳内にコントロールできる器官が疑似的に出来るのかなあ?」
まあいいや。
分析完了。
サンプルは確保した。
先に進もうよ。」
マリエルは驚くしかなかった。
道中
どうやら、吸血鬼は夜間以外に昼間でも薄暗い森の中などでも活動できるが、日中は全く出てこない。
マリエルもそこまでは解っていた。
「ねえ、吸血鬼は日の光で灰になる?」
「いえ、私達の実験は仮死状態になるだけでした。」
「君達の話では本当の吸血鬼が、これは人間が造ったものだと言ったそうだね?
心当たりは?」
「いえ、全く。」
「まあ、普通に考えたら不老不死の為に造ろうとして失敗したと考えるのが妥当かなあ。
としたら容疑者は皆当てはまるだろうからねえ。
不死なんてそんなに楽しいものでもないのにねえ、馬鹿馬鹿しい。」
「全く同意見ですな。」
突然、聞いたことの無い老人の声。
「・・・へえ、僕らの通信に割り込めるなんて相当の科学技術を持っているんだね。
吸血鬼ってさ。」
マリエルは驚く。
吸血鬼・・・ハカセは何故相手が吸血鬼だと断定できるのだろう。
「この先の城塞都市に私はいます。
ぜひお寄りください。
お話ししたい事、お願いしたいことがあります。」
通信が切れた。
城塞都市カノン
一行はカノンに到着する。
街の中に入り、広場に着く。
「さて、これからどうしようか。」
と、一人の老人が近付いてきた。
「ようこそカノンに。」
あの老人の声で・・・
しかし時は昼前、日中だ。
「小さな宿屋を営んでいましてな、是非おいで下さい。」
老人の案内で宿屋に着いた。
一同は、部屋に通される。
「わしはここの吸血鬼の長をしています。」
マリエルは、
「ここと言いますが、この地には何人ぐらいの吸血鬼がいるのでしょうか?」
「最初は20名ほどですか・・・今はこの星には10名です。」
「この星?」
マリエルは、訝しがる。
ルーシーが、
「他の皆月にいるよ。
人間もたくさん。
なかで寝ているの。
「お分かりですか、流石ですね。」
「待って、話が見えないわ。
何故、月にあなた達や人間がいるの?」
マリエルは、訳が分からない。
ルーシーが、ああ、と言う顔をする。
「ここ、造られた星。
月は、宇宙船だよ。
お月様が重力で引っ張ってほしを調整してる。」
それでね、この星人間いっぱいいたけど、もうほとんど吸血鬼。
この国の半分が、人だけで、後は全部吸血鬼。」
「まあ、私達は吸血鬼と呼んでほしくは無いですがね。」
「・・・えっ?」
マリエルは、困惑する。
「ここって、中世のフランスじゃ・・・無い・・・?」
「ぜんぜんちがうよ、おなじ銀河系だけど反対側、そしてね、西暦だったら1万5千年くらい、だよ。」
ルーシーが、訂正する。
「改めて言いますと、あの月に見えるのは移民船。
私達は、この星を改造して、中世を模して皆を下ろすことが出来るかシュミレーションを行っていました。
・・・残念ながら実験は失敗の様ですが・・・
本来、私達吸血鬼は人の中に紛れてひっそりと生きてきたのですが、ある時に表に立ち、人間と交渉して共に移民船団で宇宙に出たのです。」
「中性子星?」
「よくご存じで。
地球に衝突しましてね・・・」
「ルーシーの世界はね、たいよ~にぶつかったの。
それでね、ルーシーは人類のお墓になったの~」
「・・・人類の墓標計画・・・だよ。
僕らの世界に近い世界・・・か。」
「どうやら、その様ですね。
只、あなた達は世界も時間軸も無視しているのですか・・・とんでもない事が出来るのですね。」
「ルーシーは、世界を旅してるんだよ。
いっぱい、いっぱい、旅してるんだよ。」
「それで、話って何だい?」
「・・・ジル・ド・レェの事です。
彼は我々の仲間を探し出し、殺しています。
・・・彼を止めて欲しい。
元々、我々は関係ない。
一部の人間がここで勝手に行った事です。」
「何か虫のいい話に聞こえるけどね。
僕達にメリットが無いよねえ。」
「ジル・ド・レェは脱走時に、火あぶりの刑の焼け跡からジャンヌの心臓を持って逃走しました。
これが、あなた達の欲しい情報ですか?」
「・・・そうだね、ありがとう。
あっ、もう一つ君江と言う魔女はそこにいる?」
「恐らくは・・・
私達のお願いしたい事は、彼の復讐を止めて欲しいのです。
彼に仕返しをしたい訳でもありません。
只、今の彼は私達から見ても異常なのです。
いとも容易く私達を殺せる・・・
不死の私達を・・・
あなた達と根底にあるのは同じ力だと思います。」
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