弁慶記 第3話
旅芸人一座
こうして至急芸人一座としての準備が始まる。
座長、交渉役が伊勢三郎。
義経は隠れて、ルーシーが一座の顔役。
芸人のまとめ役を、アインとツヴァイ。
世話の女性達も7人ほどついた為、総勢で30人ほどになり、用心棒が弁慶一人では手が足らなくなる為、またサッキーとサッシーが呼び戻される。
軽業用の荷物が多くなる為に、荷車の通りやすい東海道を行くしかないと三郎が考えていたが、
大荷物を広場に集め、ルーシーが星空を伸ばして全て収納するのを見て、
里の皆と共にあんぐりと口を開ける。
同時にこれならと、鈴鹿を超えて後、北上して美濃を抜け海に向かい北沿いに奥州に向かう決心をする。
出発前日、宴が開かれる。
ルーシーが、
「肉祭り~っ!」
星空が広がり、見た事のない巨大な生き物を出す。
ドラゴン・・・
「り、竜なのか?竜の肉なのか?」
「ここと~違う世界のドラゴンだよ。」
何か良く解らいまま皆美味しいと食べる。
「さあ、姐さん方もどうぞどうぞ・・・」
「・・・姐さん・・・」
アインとツヴァイは困惑している。
ハカセが、
「まあ、諦めなさい。
あなた達にとって初めての生身の部下よ。
あなた達にとってもいい経験になるわ・・・
・・・いい意味でも、違う意味でもだけどね・・・」
「生身の部下、か。」
アインとツヴァイは複雑な表情をする。
今まで各種ドローンを使い、任務を遂行してきた。
ルーシーが生まれてからは、対人用の球形ドローンを使用してきた。
生身の人間の部下・・・自分達よりはるかに弱く、脆い人間の・・・
黙って聞いていた弁慶は、ハカセの言う真の意味も、アインとツヴァイの戸惑いも、手に取る様に理解できる。
あの戦場もそうだった・・・
やがてお開きになり、寝室にアインとツヴァイ、ルーシーで入る。
何故か二人が頷き合い、戦場に行く面持ちで寝室に行くのが不思議だったが・・・
出発
翌日、寝室をルーシーが元気に飛び出した後で、ふらふらとした足取りでアインとツヴァイが部屋を出てくる。
「久しぶりに一緒に寝たが・・・」
「相変わらずね・・まあ、可愛い寝顔が見れたからいいか・・・」
弁慶が、
「お主達、大丈夫か?」
やがて、準備が整い先頭が伊勢三郎が率いる10人程と義経、真ん中に女性組と弁慶、後方に残り10名とサッキーとサッシーの隊列で一路鈴鹿峠に向かう。
ルーシーはお気に入りとなった弁慶の肩に乗っている。
アインとツヴァイは弁慶の後に付いて歩いている。
これなら、前後に何かあっても即時に状況が通信できる。
更に伊勢三郎にも、小型のイヤホン型の通信機を渡してある。
ハカセと初めて通信して話をした時は、驚いていたが柔軟な思考を持っているので、受け入れるのも早かった。
「ルーシーや、めんこいねえ、将来はそこのお姉さん達みたいに美人になるよ。」
「もう少し行くと茶屋があるから休憩しようよ。」
真ん中の集団だけ騒がしく移動している。
茶屋で休憩中、一人の男が杖の上に乗りバランスを取りもう一人がその肩の上に飛び乗る。
一人の女性がお手玉をすると、もう一人が横からどんどん追加でお手玉を投げ、8個のお手玉をくるくると回す。
「すごーい、すごーい。」
ルーシーは大喜びだ。
「大したもんだねえあんた達。」
茶屋の人達も他の旅人達も眺めている。
「関宿あたりで一度興行しようと思う。
皆も是非見に来てください。」
三郎がさりげなく宣伝をする。
「成程な・・・」
弁慶が感心する。
こうしながら進めば、他の旅人たちの噂になり関所の役人の警戒も結果、薄れる事になる。
一番警戒されるのは、得体のしれない謎の集団、なのだから・・・
「姉さん方も何か出し物お願いしますぜ。」
三郎が頼む。
「え、えーっ!」
「どうしよう。」
「見たーい、アイお姉ちゃんとヴァイお姉ちゃんの出し物、楽しみ~」
ルーシーが言って、ダメとは言えなくなった二人・・・。
関宿
最初の関所は、あっけなく通過した。
先に通っていった旅人から聞いたらしく役人が、
「いつここで興行するんだい?暇があれば見に行くよ。」
声を掛けられる。
三郎が関宿の元締めに挨拶と上納の相談に行き、3日ほど空き地を使用させてもらう運びになった。
早速、空き地に行くと人で囲いを作ると、ルーシーが星空を広げ、荷物を出す。
「やっぱ凄いわねえ。」
料理番の女性が感心する。
三郎が、
「さあ、各人自分の道具で練習だ、練習不足で失敗するなよ。」
アインとツヴァイはルーシーに頼んで2メートル程の杭を4本とロープを2本出してもらい、弁慶に頼んで、10メートル程の間を挟んで2か所の杭とロープで結んだ足場を作ってもらう。
強度を確認して、二人がロープの上で跳ねて、やがてお互い同時にジャンプして足場を交換する。
再びジャンプすると、中間の空中で互いの靴底を足場にして跳ねて元の足場に戻る。
「初めてだとこんなとこかね。」
「・・・いや十分凄いぞ。」
弁慶も驚く。
見ていた三郎が、ふいに、
「なあ、ルーシーもっと丈夫な長い杭とロープを出せるか?
最後に何人かで綱渡りをして大きな見せ場を作りたい。」
三郎の提案で、5メートル程の高さで長さ20メートル程の綱が張られる。
しかし、ロープでは張力が得られない為、里の男たちが命綱を着けて練習しても、なかなか成功しない。
と、
「ルーシーもした~い。」
三郎が、
「無理無理、第一綱迄上るのもお前じゃ・・・」
言いかけて目を丸くする。
ルーシーは、すたすたと杭を垂直に歩いて登り、そのまま綱を逆さに歩いている。
まるで蝙蝠の様に・・・
髪も逆立たずに普通に歩いている。
いつの間にか、全員が練習を中断して見ている。
口をあんぐりと開けて・・・
そのまま綱の真ん中で、
「どう?ルーシー凄い?」
「あ、ああ。」
「これは凄いが、一体幻術か何かか?理解できん・・」
弁慶が、
「ハカセ、これは・・・」
「ルーシーは異世界「ルーシー」とリンクしていたら、時間、重力、原子配列、素粒子運動、など思いのままよ。
何だったら反物質だって精製可能さ。」
「反物質・・・あり得ない物理法則・・・か」
「そう、ある意味この子は、「結果」の為に「過程」を必要としない。
物理法則を書き換え出来るからね。
それが今現在ほぼ封印されているこの子の持つ本当の能力、「世界」を司る力・・・
「時空を超える石」の真の意味・・」
「封印と言うのは?」
「あたしの双子の姉、そしてこの子の母親が一人であたし達を送り出した事になっているけど、本当は彼女は「時空を超える石」に付いている「欠片」の中で命がけでその力を押さえ続けているの。
この子の中で力を使い続け、半ば休眠状態でね・・・
あたし達を送り出したのは、実はあたし達の末妹・・・
あたしの名前はナナ、これで察して頂戴・・」
「つまり、お前達はAIでは無く、人間だと?」
「・・・今のあたし達は、只の人でなし、よ。」
三郎は会話も知らず、
「凄い、これなら見世場の出し物が出来るぞ!」
大喜びしている。
「しかし惜しい、これで大きな妖怪風の動物でもいれば、本当に滝夜叉姫を名乗れるのになあ、」
すると、ルーシー。
「ケロちゃん、ティーレックスになって。」
目の前に銀色の恐竜が現れる。
思わずみんな悲鳴を上げて逃げる・・・
俯いてしょげるティーレックス・・・
「こ、これは・・あ、あんたらもしかしてほ、本物の滝夜叉姫・・・」
「あほか!そんな訳無いわ!」
ハカセが、突っ込む。
「なんか物凄い一座が出来た様な気がする・・・」
「あんた、目的忘れないでよね。」
弁慶、
「やれやれ。」
初興行
翌日から興行を3日間行い、盛況のまま終える。
流石にティーレックスはまずいので、ケロちゃんはインパクトを考慮してダチョウにした・・・
関宿の元締めに、引き止められたが丁寧に断りそこから一路北を目指す。
「うーん。
想定以上に目立ち過ぎたなあ。」
三郎が浮かぬ顔をする。
「何かあったの?」
義経が、訊ねる。
「後方から付いてくるものがいる。
おそらく、元締めの配下だろう。」
「接触してこなければいいんじゃない?」
「いや、おそらく美濃に入ってから奴らはわざとひと悶着を起こして、俺達に美濃を超えられないようにして、引き返させるつもりだろう。」
「じゃあ、消す?」
「それも悪手だなあ。・・・」
「じゃあ、付いてこれなければいいのよね。」
ハカセが、割り込む。
その頃、二人の追手は足元に突然出来た星空に驚く。
更に驚くことに、そのままどんどん凄いスピードで元来た方向に動いてゆく。
追手が気が付くと関宿の入り口で、呆然としている。
ふいに足元から、バサバサッと銀色の烏が飛び去って行った・・
美濃
美濃に入るまでに、同じ様に2回程追手を追い返すとそれっきり来なくなる。
念のため美濃の国は通過して、そのまま北上していく。
山道がきつくなるが、上空にクロちゃんがいるので道に迷う事は無い。
幾たびか、小さな集落に着くと場所を借り休憩や宿泊をして、お礼代わりに出し物をする。
小さな子供が喜び、ルーシーもにこおっと笑って遊んだりしている。
それを眺めながら弁慶は、アインとツヴァイに、
「お主達もルーシーの様に元素転換や、重力制御が出来るのか?」
「私たちには無理、私達は「ゲート」つまり亜空間の展開と制御、それにナノマシンの制御迄ね。
異世界「ルーシー」には、あの子の助けが無いとリンク出来ない。
それが常時出来るのは「時空を超える石」を持つルーシーと、その欠片を持つ「ユニット」だけ。
そしてあの子はその「世界」そのものと言ってもいい・・・異世界「ルーシー」より、あの子の方が上位なのだから・・・
只、「時空を超える石」を通してリンクされた結果なのだから、あの世界そのものが、異質な世界なのは間違いないけどね・・・」
三郎が、近づいてくる。
「村長が言うには、ここから北に向かうと、途中に山賊の村があるそうだ。
迂回したいところだが、かなり大回りになるらしい。
周辺の里も困っているそうだ。
村長に頼まれてな・・・
悪いが俺達が先行して一仕事するので、あんた達は後で来てくれんか?」
「相手の数は?」
「男たちで100人程らしい。
少しきついが女達も出せば何とかなるだろう。
ハカセもそれでいいか?」
「いや、その必要はないよ。
明日皆で行きましょ。」
いつの間にか、アインとツヴァイの姿が無い。
「馬鹿な娘達・・ヤタガラスに任せときゃあいいのに・・」
ルーシーは里の子供達と一緒におばちゃんにお手玉を教えてもらいながら遊んでいる。
「妹の為・・・か。」
弁慶が呟く。
「あたしや姉さんは、あの子達にも幸せになって欲しいんだけどね・・」
「わしの立場から言えば、そう造られた以上は・・・な、」
「ふん、まあ時間はそれこそ幾らでもあるのさ・・・でもいつかは・・・」
「ああ、いつかは・・・」
北陸道
翌日、里に挨拶を澄まして出発の準備をする。
アインとツヴァイは夕食が終わるころにはいつの間にか戻っていて、
朝は普通に起きてきた。
だが、二人とも目の周りにあざが出来ている。
弁慶が、
「そんなに手強かったのか?」
「いいえ、うっかり熟睡してしまった・・・」
「不覚・・・」
どうやらルーシーにやられたらしい・・・。
当の本人は、美味しそうに朝食を頬張っている。
出発して、頼まれていた山賊の村がある辺りに着くが、村など無かった。
更地があるだけ・・・少し黒くなった場所が数か所あるだけで、何もない。
弁慶はセンサーで周囲を見ても、何もなかった。
義経は、少し嬉しそうだ。
「神隠しの里、だねえ。
怖い怖い・・・」
そのまま通過して、一路北陸道を目指す。
加賀の国に入る。
其のまま進み、ようやく北陸道に入ると加賀の国分近辺に出る。
後は、越中と越後を抜けると、出羽に出る。
後は街道沿いに進むのみ。
人通りも多くなり、皆もどことなく明るくなる。
ルーシーも、
「ベンちゃん、あれ何?」
「あの人、何を売ってる?」
肩の上で、珍しそうにキョロキョロしている。
三郎が、また茶屋で休憩をしながら、芸を少し見せる様になった。
「あんた達、どこまで行くつもりだい?」
茶屋の主人に聞かれて、三郎が、
「とりあえず、奥州に向かうつもりだよ。」
「越後を抜ける時は気を付けた方がいいよ。
あの辺りには野盗が多くてねえ、まあ強そうな用心棒がいるから大丈夫か。」
肩にルーシーを乗せた弁慶を見て茶屋の主が言った。
数か所で興行をして、あと少しで佐渡への分岐辺りに着く。
この辺りから、野盗が出てくるそうだ。
弁慶が、警戒を強めていると、
「弁慶、そんなに心配しなくてもいいわよ。
もう奥州迄あと少しだから。
ルーシーも遠慮はいらないから思いっ切りやっちゃいなさい。」
「わかった~。」
「あっクロちゃんからデータ転送、前方三キロ盗賊発見、キーちゃん対戦車ミサイル発射~。」
突然、足元に星空が広がると金属の筒が火を噴いて飛んでいき、遠くで爆発が起こる・・・
「あっまた見つけた~。」
次々と発射される対戦車ミサイル。
野盗達はもう襲撃どころではない。
何が起こっているのかも分からずに、逃げるので精一杯だ。
「やれやれ、」
弁慶が呟く。
周りの女達もルーシーが何かしているのは解るが、当の本人はきゃっきゃっと笑っているので、まあいいかとあまり怖がらずにいつも通りに歩いている。
そうして、一行はついに奥州に到着する。
平家の力の及ばない国に・・・
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