弁慶記 第2話

      野宿

 一同は、京から東に向かう。

 途中、ハカセより頼まれて延暦寺縁の寺に寄り、僧兵の服を二人分手に入れる。

「こんなもの、どうするつもりだ?」

 弁慶が訊ねる。

「護衛が多い方が、変な気を起こす者も少なくなるわ。

 悪いけど同行者を二人増やしてもらうわね。」

 ルーシーの服にケロちゃんともう一つ、銀色をしたトカゲが張り付いている。

 やはり、右眼が紅く輝いている。

 と、額にもう一つ、燃えるような眼が開く・・・

 突然、目の前に二人の、ますらおの姿・・・

 一人は、背に3尺余りの刀身を持つ刀を背負った美形の剣士。

 もう一人は、弁慶にも引けを取らない大男。

 腰には刀が2本。

 脇差ではなく、同じ長さの大刀を2本・・

「サッキーとサッシーだよ。

 一人は巌流島で連れてきて~もう一人は~その後で連れて来たんだよ~。」

「ルーシーやその呼び名そろそろやめてもらえんか?」

「なんか、二人セットみたいなイメージが・・」

「いや~っ!その方がかわいい、」

 ルーシーがごねる。

 義経は、

「まあ、別にいいけどさ・・・

 しかし、これ程の剣気を持つ者がいるとは・・・

 つくづく君が怖いよ・・・」

「後を付いてくる二人は、もっと凄いわよ。

 まあ、今回は姿を見せるつもりは無さそうだけどね。」

 ハカセが言う。

 こうして、5人組になり鈴鹿の山に向かう。

 一応、義経が最初に音を上げて休憩に入る。

「ハカセ、この子は野宿でもいいのかい?」

「ああ、そこは気にしなくてもいいわよ。

 この子はそんなの気にしないし、今までの旅路では人なんかいない世界も、普通にあったしね。

 そもそも今まで世界を旅してて全て受け入れてもらえた訳でもない。

 幾度も攻撃をされたことも、追われたこともある。

 この子は世界を移動する度に、5歳児相当にリセットされる。

 世界を移動するのはそれなりの大仕事だから、質量に制限があるの。

 かといって、赤ん坊だとこの子が危険になる。

 最も遺伝子上のピーク、20歳位からは歳を取らないけどね。

 まあ、外見だけなら老婆にもなれなくも無いけどね。

 ああ、食料とかは今までの備蓄があるからルーシーに頼めば、幾らでも出してくれるわ。

 この世界ではだめかもしれないけど、肉とか、ね。

 あんた達もあんま酒頼まないでよ!」

「・・・善処します・・・」

 しょんぼりと、助っ人二人・・・

 結局、山中で野宿をすることになる。

 休めそうな場所に着くと、火を起こせそうな場所に猪がが置いてあった。

 クロちゃんが捕まえて、置いて行ったそうだ。

 すでに、血抜き迄終わっているそうだ。

 ルーシーはお腹いっぱい食べて、ご機嫌のまま火のそばで寝る。

 義経が気が付くと、二人の姿は見えない。

「ねえ、姐さん。」

「何だい?」

「あんた達、自分をAIと呼ぶけど少なくともあんたは違うよね?

 我に近い「存在」だよね?

「あんた自分を天狗と呼ぶならば、国津神・・天津神に追われしモノだね・・・

 遠野があんたの目的地かい?」

「いや、そうではないよ。

 只、僕らは殆んどが散り散りに追われて、その事はもう終わった事さ・・・

 それよりも、この子は一体何だい?

 我から見ても、あまりにも・・・理そのものを余りに逸脱しすぎている・・・

 多分、貴方方ですらこの子には・・・」

「それが分かるだけでも大したものさ、国津神の長よ・・・

 忠告するけど、くれぐれもこの子を利用しようと考えるんじゃあないよ。

 この子は、その気になれば、世界を、神々をも滅ぼせる。

 それは、最終兵器「ルーシファー」と組み合わされたこの子を真に開放するための、最終手段・・・

 人の、親の「業」って奴さ・・・」

「怖い怖い、だから人間って奴は・・・」

「と言うことはあんた、最終的には藤原氏を・・・」

「まあ、それは成り行き次第かな。」

「ふーん?まあいい。

 あまり弁慶は酷使しなさんな、ルーシーが悲しむからね。」

「肝に銘じるよ、我の為にも、この世界の為にもね。」

「賢明だね。」

 弁慶は会話を聞きながら考える。

 わしはこの世界を好きなのか?

 前いた世界に帰りたいのか?

 以前戦っていた敵、が憎いのか?

 ・・・答えは自分でも分からない・・・

      野盗

 朝になり、気が付くとサッキーとサッシーの二人は戻って寝ている。

 朝飯を食べ、ルーシーの足元から星空が伸びると、猪が沈んでいく。

 義経が、

「便利なものだねえ。」

 感心する。

「ヨッシーは出来ないの?」

「無理だよ、それにヨッシーって我の事?」

「うん、ヨッシー。」

「・・・まあいいや。

 それでお二人さん昨日はお疲れさん。」

「・・・少し離れて集団が付いてくる。

 明日の晩辺り、襲撃があるかもしれん。」

「午後、少し外れるぞ。

 あとの二人と、挟み撃ちを仕掛ける。」

「じゃあ、お任せするね。」

 その頃、彼らの後ろに30人程の集団がいた。

「今晩、囲んで仕掛けるぞ。

 いつもの通り集団で囲んで戦意を奪って、金をもらうか、護衛としてたんまりもらうか、だ。

 いいな、殺すなよ。」

「あいよ、お頭。」

 話し合っている更に後ろで、聞き耳を立てている二人の人影がいた・・・

       襲撃

 昼時に獲物たちが昼食を食べだし、野盗達が自分達もと思った頃、突然眼前に二人の男が現れた。

「ちっ、感付かれていたのか・・こうなったら仕方な・い・・」

 言いかけて、野盗のお頭は自分の間違いに気付く。

 この二人、ここにいる全員でかかったとしても・・

「全員逃げろ、急げ!」

 前方にいた二人が言うことを聞かず刀を抜こうとして、動きを止める。

 いや、一人が縦から体がずれ、もう一人が肩口から斜めにずれる。

 まさに、一刀両断・・・

 残る全員は後方に逃げる。

 逃げた先に、二人の老婆がいた。

 腰が曲がり、大きな木の杖を持ち並んで歩いている。

 顔は手拭いを被り見えないが、二人とも、銀色の髪をしている。

「どけ、婆あ。」

 先頭の二人が刀を抜く。

 突然腰が伸び、すっくと立ちあがる二人の老婆。

 170センチ近い身長、背が高いのを隠していたのか・・・

 銀色の髪、銀の瞳、そして右眼が紅く輝いている。

 着ている服が戦闘服に変わる・・・

 木の杖が、一瞬で刀に変わる・・・

 そして、先頭の二人も一瞬で一刀両断にされ、野盗達は動きを止める。

 二人の足元から星空が広がり、無数の銀色の金属球が空中に浮かび上がる。

 一人が、それを足場にして空中にジャンプする。

 20m程の高さに飛び上がり、それに気を取られている間に地上のもう一人が、中央突破を仕掛けようとした、その時、

「あ~っ!お姉ちゃん、み~つけた!」

 野盗達の後方から、大声でルーシーが叫ぶ。

 空中で、ガックリうなだれてアインが着地し、地上ではその体制で、ツヴァイがコテンと倒れる。

「もー姉さん高く飛び過ぎよ、ルーシーに見つかっちゃったじゃない!」

「面目ない・・・」

 野盗達は、訳が分からず全員立ちすくんでいる。

 戦意は逆に奪われていた。

 義経達が現れる。

「ねえハカセ、なにこれ?どういうこと?」

「ああ、この二人はルーシーの姉でね。

 いつも陰ながらルーシーの護衛をしているの。

 でなかなか二人とも普段会おうとしないからルーシーがごねてね、もしルーシーが二人を見つけたら、一緒に行動するって約束させられたのよ。

 要はかくれんぼ、ね。」

「かくれんぼ・・・」

「アインとツヴァイ・・・「プロジェクト・ルーシファー」の実験機・・・

 この子達は「プロジェクト・ルーシー」人類の墓標計画の前、「現代の魔王」計画の実験機。

 4分割された受精卵の二つ。

 末妹のルーシーの為に自ら望んで、隠密行動重視に再調整され、遺伝子「ルーシー」を取り込み、アップグレードされたある意味究極の暗殺機・・・

 この娘達がルーシーの為に本気で戦えば、誰も敵わないでしょうね。」

「じゃあ、もう一つの受精卵は?」

「プロト・ルーシー、あの子は世界を移動する実験中に事故で失われた・・・

 時空の彼方に飛ばされてね・・・

 あたし達はあてのない旅と言ったけど、あの子を探すのも目的の一つと言えるわね。

 さあ、この話は後で。

 今はこいつらをどうするか、よ。」

     交渉

 ルーシーが二人に飛び込んで抱き着く。

「アイお姉ちゃん、ヴァイお姉ちゃん、約束~っ!」

「やれやれ、分かった分かった。」

 野盗の棟梁が、義経を見てここのリーダーと判断したのだろう。

「なあ、あんた達何者だ?」

「我は源九郎義経。

 奥州に向かう途中さ。」

「源義経・・・成程な・・・なあ、俺達をどうする気だ?

 こんな化物共を引き連れて、平家にたてつくつもりなのか?」

「ねえ、君達元々僕らを殺すつもりじゃあなくて、護衛と称して金品を巻き上げるつもりだったんでしょ?

 じゃあ、奥州迄本当に護衛として雇ってあげるよ。

 どうかな?

 今持ち合わせは無いけど、出世払いでどう?」

「・・・それはあんたの部下になって一緒に平家を倒すまで戦うって事か?」

「恐らく、そうなるね。」

「・・・少し相談させてくれ・・・」

 部下達と集まり何やら話し合っていたが、そのうち一人がどこかに走っていく。

「話はついた。

 この近くに俺たちの里がある。

 悪いが一旦寄ってくれ。

 これからの事を相談したい。

 名乗るのが遅れたが、俺は伊勢三郎。

 こいつ等の頭だ。

 ああ、お前達が切り伏せた奴等は気にしなくていい。

 少し質の悪い新人達でな、ろくに俺の命令も聞きもしない奴等だったからな。」

 思い返すと、確かに他の野盗達は連携も取れ、命令と同時にすぐに逃げようとしていた。 

「山道を南に抜ける事になる。

 普通の人間にはキツイと思うがあんた達なら大丈夫だろう。

 サッキーが、

「・・・伊賀者、か。」

 サッシーも、

「いや、当時はまだ存在していないだろう。」

 話し合っている。

 弁慶はアインとツヴァイを交互に見て、ルーシーを見やって、

「妹の為に、か。」

「私達は元々戦争の為に造られた。

 だが、この子が違う目的の為に造られ、幸せになれるのなら姉としても、こんなにも嬉しい事は無い。」

「それが今の私達の生きる意味であり、自分達自身の意思、でもある。

 弁慶よ、お前ならこの意味が解るだろう?」

「ああ、良く解る。」

 珍しく、弁慶は微笑む。

 アインとツヴァイも、微笑んだ。

      里

 山道を抜け、開けた盆地が眼下に見えた頃の中腹にその里はあった。

「下に見えるのが、伊賀の国さ。

 ここが俺たちの里、さ。

 まあ、ここで少しの間じっとしていてくれ。

 若さんは、一緒に来てくれ。

 長の爺様方と話をして欲しい。」

 三郎と義経が、二人で出て行った。

 その間、用意してくれた民家の軒先で4人が座って待つ。

 サッキーとサッシーが今度は離れて、今はアインとツヴァイ、ルーシーと弁慶の4人組だ。

 いつの間にか、アインとツヴァイも漆黒の髪、黒い瞳になっている。

 戦闘服はそのままだだが・・・

「よくあの山道を抜けてきたねえ。

 里の者でも難儀するのに。

 さあ、お茶と団子だよ、お食べ。」

 おばあさんが出してくれた団子を美味しそうに頬張るルーシー。

 アインとツヴァイはくつろいでいる様に見えるが、視線は警戒態勢だ。

 弁慶は、おばあさんに、

「この里は、ふもとからは離れた位置にあるが、隠里のようなものなのか?」

 と訊ねる。

「そういう訳でもないさ。

 昔からあるが、見ての通り米や麦が作れる訳でもないからね。

 炭焼きや、焼き物とかいろいろやってるのさ。

 後は軽業師とかの旅芸人とかね・・・」

「・・・盗賊もその一環か・・・」

 聞こえないように、弁慶が呟く。

 四半時もたつ頃、二人が戻って来た。

 顔が暗い。

「断られたよ。

 流石に先立つものがないからね。」

「悪いな。

 役に立てなくて・・・」

 義経に、ハカセが、

「あら、先に言いなさいよ。

 ルーシー、それと弁慶、刀を何本か頂戴。」

 弁慶が何本か刀を軒先に置く。

 すると、ルーシーの足元から星空が伸び、同時にルーシーの右眼が一際紅く輝く・・・

 刀が一点から光りだし、やがて全ての刀が黄金に変わった。

「ふうっ。」

「これなら、文句言わないでしょ。

 さあ、もう一回行っといで。」

 三郎、義経、弁慶が目を丸くする。

「これは一体・・・?」

「元素変換・・・いい?誰にも言わないでよ、理由は言うまでも無いわよね?」

「あ、ああ分かった・・・」

 刀を持ち、また出て行った二人・・・

「凄いものを見た・・・」

 弁慶が呟く。

「これでもまだ文句があるなら、その爺共黄金に変えてやるわよ。」

「やれやれ。」 

 今度は一時ほどかかる。

 待ちきれず、ルーシーはアインとツヴァイの膝の上で寝ている。

「待たせたね、20人ほど一緒に行動してくれるそうだよ。」

「俺が頭でこれからもよろしく頼む。

 それで若様と相談したんだが、奥州迄はあまりにもあんた達じゃあ目立ちすぎるので、いっそ旅芸人として行くのはどうだ?

 そこの美人二人も軽業じゃあ俺達より凄いものが出来そうだしな。

 どうだいそこのお姫様も喜ぶだろう。

 滝夜叉姫の生まれ変わり、静御前、てな触れ込みあたりで行くか?

 そうすれば、若様や弁慶も霞んで目立たない。

 この里の者も、軽業では自信のある者も多い。

 一応、女共も連れて行くからそこの姫様も道中過ごし易いだろうさ。」

 意外と三郎もルーシーの事を考えてくれている様だ。

「旅芸人、面白そ~っ!

 やりたい!」

 いつの間にか起きたルーシーが食いついた・・・

 アインとツヴァイは顔をしかめるが、文句は言えない・・・

 こうして、即席の旅芸人一座が誕生した。

 後で大騒ぎになる予感を残して・・・。

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