幸せになりたい

藤間詩織

第1話 いつもの帰り道で

果歩は家と会社の往復の毎日だ。

家のある駅に着くと駅前のファミリーマートのイートインでコンビニスイーツを食べるのが一日の楽しみ。

しかし、急いで家に帰って、両親のために夕飯を作らなければならない。

53歳にもなってパラサイトシングルになるとは30年前は思いもしなかった。

果歩はお嫁さん向きだよねと友達に言われていた。

果歩自体も26までには、結婚して、子供を産んでいるだろうと想像していた。

しかし、散々不倫したり、二股かけたりと男関係が派手な友達に限って、30までに結婚していってしまった。

果歩はというと、いつもこの人嫌だなーと思う人に付きまとわれてしまう。

そして、いいなと思う人には彼女がいてさっさと結婚していってしまった。

果歩が男性に消極的だったのには理由がある。

自分が障害者だったからだ。

健常者の男性が障害者の自分を相手にしてくれるわけがない。

実際、最初に勤めた商社でよく食事に誘ってきた男性に障害の話をしたら

「俺は、赴任先に障害者の嫁を連れて行く事はできない。海外はそんな甘いところじゃないからね」

と、その日から食事の誘いはなくなった。

いつまでも、彼氏を作らない果歩を心配して、男性を紹介してくれた友達もいた。

しかし、その男性も

「僕は、こう見えて固いんだ。結婚となるときちんとした人と結婚したい」

と障害を打ち明けると早々と食事を切り上げて席を立って行った。

それからというものの果歩は、結婚を諦めるようになった。

そして、普通の恋愛も諦めるようになった。

障害があることもひた隠しにし、たまに合コンで言い寄ってくる男性も交わして帰ってくるようになった。

そして、30になった。

このままの人生で終わってしまうのだろうか。

悔しくなった。

結婚ラッシュが始まり、出産ラッシュも始まり、みんなからおいていかれる思いで泣いてばかりいた。

そんな折、自分に何か武器を持ちたいと思い、中学生のころまで賞状をもらっていた絵を始めてみたらどうかという伯母の勧めもあり、絵画教室に通うことにした。

また、休日はみんな結婚して遊び相手がいなくなってしまったため、刺繍キットを買ってきて、家で刺繍をするようになった。

こうして、完璧に一人の世界にこもる生活に自然となってしまった。

気づけば、女を捨てたおばさんになっていた。

「でも、いいんだもん。両親に愛されているだけでも幸せと感謝しなくちゃ」

街はイルミネーションで輝いていた。

道行くカップルは楽し気に腕を組んで歩いている。

わたしには縁のないことだわ。

果歩の目にイルミネーションがかすかにかすんで見えなくなった。

年明けの大宮の街はどこかみんな楽しげだ。

人ごみをかき分け、埼京線に乗り、家のある南与野の駅まで果歩は電車に乗った。

埼京線から見える赤富士は綺麗だった。

悲しいほど綺麗だった。

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