逆ナンでふられた件

 私は住み込みで工場に勤めているが、その場所は少々町から離れた山の中にある。

 日中の勤め時間が終わるとあとは自由に行動出来るが、なにせ山の中なので夕方から町に行くのが億劫になる。それで週末にこの全寮制の山の中にある宿舎を出て皆町に繰り出す。夜寮に帰る人がいるが町に宿を取る人が多い。


 この工場の人の多くがにしているホテル兼レストランがあるが金曜日の夕方は混むので、もう少し歩いた町中にある別のホテルに向かった。


 田舎町のため中心街でもビルはせいぜい4階建てくらいだが、軒を連ねた中にあるビジネスホテルに私は入った。

 ロビーに入るとけっこうここも人でごった返している。その中のひとりに知り合いの女性がいた。


 冬の日だからコート着だが今どき珍しい原色に近い青のコートが印象的な彼女はわずかながら色黒な肌の人で、私は彼女に話しかけた。

「俺達ここに二人でいると他の人に誤解されるかな」と聞くと。

「全然かまわないよ」と大げさな身振りジェスチャーをしながら彼女は答えた。

 私は驚いて「そんなに⁉」と答えた。


 ここでは私は同じホテルだが彼女とは別の部屋を取る気で声をかけていたが、鎌をかけるようにまた言った。

「同じ部屋でも」

「うん、うん、全然かまわない」


 この全面的受け入れに逆ナンされているような気になった。


 こんなに女性に受け入れてもらえるような経験は私には今までなかった。

 それでさらに驚いた。「そんなに」



 彼女はものすごい美人だと言う程でないが普通に綺麗で男慣れして遊んでいる風でもなかった。清楚ではあるけれど清廉とまでいかないよくあるタイプである。


 互いに未婚であるのはわかっているからこのまま付き合うのも良いが、彼女のジェスチャーを交えた受け入れに私は色めき立った。


 するとロビー内にいる誰ともつかない視線に少々困惑した。彼女の知り合いがいるような感じがしたのだ。彼女の名前をヒソヒソ話の中に聴き取れた。


 本当はそんなことを気にせずに私は童貞を彼女に捧げれば良いものを、彼女の手を引いて別のホテルを探しに行った。彼女は私の言うままに付いて来たが、結局ラブホテルに入ることにした。


 そこは前払いで私が財布を出そうとすると彼女がもう支払いをしようと金を出していた。結局私が全額払って部屋に入ったが、私がトイレから部屋に入るともう誰もいなかった。


 逆ナンされたみたいだったが、いくつかの私の言動が気に触ったのか一方的にふられた。はじめのビジネスホテルで堂々と彼女と同室を取っていたら彼女はものに出来ただろう。



 夢の中ですら女性と縁がなかった私だが、このようにいつも通りひとりになり独りで夜を明かし、独りでことに耽った。


 また独り

 それも自然に  ギルバートオサリバン

 

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