第4話 セン、世を直す

セン・アレクシスが8歳となってしばらく経ったある日、アレクシス領の隣に位置するレイバーン領にて、大規模な山賊が現れたとの情報が入った。


山賊の数は100を越えていて、レイバーン領内の農業が盛んな地帯で暴れ回り、多数の死者を出しながら農産物を掻っ攫っていったそう。

レイバーン領の騎士団と国が運営する聖騎士団が協力して山賊を追っているが、未だ捕らえることが出来ていないらしい。


それを知ったネルは、酷く心を痛め、父親にやっつけて来て欲しいと願った。

うちの騎士団は強く、多少大きかろうと山賊程度簡単に制圧してしまうからだ。


しかし、父は領土を持つ貴族であり許可や要請なく他領に騎士団を派遣することは出来ない。

騎士団がどれだけ強くとも、遠隔で山賊は倒せないのだ。


自分からは何も出来ないとわかってしまった7歳のネルは言った。


「悪者きらーい、と。」


□□□□□□□□


満月の下、僕は駆ける。


誰にも気づかれぬように。


顔を隠すための黒ローブを纏いながら、魔力も使い全速力で走った。


レイバーン領の僻地、山の木々に隠された場所に、奴らはいた。


「目標発見。」


僕の姫様が言ったんだ、君たちのことを嫌いと。


だから、


「死ね」


外で見回りをしていた3人の首が飛んだ。

血の吹き出る音に気づいた山賊の1人が叫ぶ。


「敵襲ー!!!敵襲ー!!!テキシュッ!!!!!」


もう1人、山賊の首が飛んだ。


「かこめえええええええええええ!!!!!」


5人の山賊が黒ローブを囲む。


バサッ


首が、胴が、腰が、腕が、足が、切られていく。


「ギャアアアアアアアア!?!?!?」


痛みに耐える山賊が叫ぶ。


「化物だ!!!化物が出たアアアアアアア!!!」


1人、2人、屍が積み上がっていく。


その場にいる誰もが恐怖した。


泣き叫ぶもの、腰が抜けるもの、身体に鞭を打ち立ち向かう者。


その全てが、2つにバラけた。


生き残る全てが絶望し、戦場に沈黙が訪れる。


「ああん?、なんだこりゃあ。」


その時、一際強い存在感を持つ山賊が、戦場に現れた。


「おいテメェ、夜中に激しくやってくれてんじゃねえか。」

「何処のもんだ?」


その山賊が言葉を発すると、空気は震え、他の山賊全員が黙りこくった。


「ッ...」


その状況に、初めて黒ローブは動揺を見せる。


「だんまりか、ビビっちまったか?」

「まあどうだっていい、こんだけ好きなようにヤったんだ、死んで詫びろ。」


男は高速で黒ローブに接近し、剣を振るった。


カキンッッ!!


しかしその一撃は弾かれる。

男は退避。


「ッチ」

「少しは戦いがいがありそうじゃねえか。」


先程は動揺が見えていた黒ローブも、現在はそれが収まっている。

男はどう攻めようかと頭を回していると、唐突に黒ローブが口を開いた。


「我はサウザンド。」


「あ?」

「サウザンド?」


「そう我はサウザンド、千の剣を振り、千の魔法を打つ。」


「千の魔法だあ!?」

「なにふざけたこと言ってやがる、気でも狂ったか?」

「だがいい、テメェはここで地獄に屠る、それは変わらねぇ!!」


男は地面を蹴り、黒ローブへと肉薄する。


「オラアアアアアアアアアア!!!!!!」


男は己の全てを込めた剣を振るった。


黒ローブの端に、刄が触れた気がした。


しかし、無惨にもその剣は粉々になる。


「なっ!?テメ───


黒ローブの拳が、男の溝内に入る。


「ッガ!?!?!?」


沈黙と絶望が、再度その場を支配した。

立っているのは黒ローブただ1人。


「ひとつ訂正してやろう。」


「これは戦いではなく、この場は戦場ではない。」


「これは蹂躙であり、この場は処刑場である。」


この場の山賊、その全ての首が落ちるまで、数秒すらかからなかった。


□□□□□□□□


山賊の情報が入って一週間が経つと、我が家に新しい情報が入ってきた。


いわく、騎士団により山賊は討伐された。

しかしそれと同時に、凶暴なモンスターらしき跡が森で見つかったので、近隣住民は夜の外出を控えるように、と。


「なるほどねえ。」


人の手柄を横取りするなんて、騎士団も墜ちたものだね。

ま、僕としてもその方が助かるんだけど。


「にしても、厨二病にあんな使い方があったとは。」


山賊のボスらしき奴と対面したとき、正直僕は目茶苦茶動揺した。

なんと相手が僕にコミュニケーションを図ってきたのだ。

あの時は頭の中が大パニックで、敵に隙を見せることになってしまった。

この僕が初めましての人と言葉を交わすなんて不可能なことだ、それもあんな柄の悪そうな奴と。

そもそも「何処のもんだ」ってなんだよ、893かよって感じ。


でもそんな時、僕の中に一つの妙案が産まれたのだ。

それは厨二病を全面に出し、かつてイマジナリーフレンド達へ見せていた、僕史上最も勇気を持てる姿を再現するというものだ。


『サウザンド』、セン・アレクシスのセンを千にして英語にした、即興のわりにはかなり気に入っている名だ。

我ながら結構カッコいいと思ってしまった。


厨二病とは僕を守る鎧であり、戦いに行くための勇気をもたらしてくれるもの。

僕の、妹の安寧のために、僕は幾度もこの鎧を着ることになるだろう。

僕はもう決めたのだ、妹が「悪者きらーい」と言うならば、悪者は滅ぼすべきだと。

世界はより良くあるべきだ、さすれば僕や僕の大切な人達の幸せにも繋がってくる。


僕、セン・アレクシス、いやここは『サウザンド』か。


「我は決意した、この世界に悪がはびこる限り、この『サウザンド』が全てを消し去ってくれよう。」
































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