薔薇色の人生
野林緑里
第1話
私ってかなりの薔薇色の人生らしい。
私の父が大手会社の社長をしていて、生まれた頃から家政婦のいる豪邸で暮らしていた。幼稚園も小中高ともにそれなりに名門の学校へ通うことができて、成績もそこそこよかったから大学もそれなりにいい大学へと進学を遂げる、就職はそのまま父の会社へ入ったから全然苦労しなかった。
そのうち同じ会社のエリート社員と恋に落ちて結婚。彼が独立することになって私も会社をやめて夫の手伝いをすることになったけど、それもまったくというほど苦労した感じはなかった。
独立しても父の会社の後ろ盾もあったことで夫の会社も順調だったからだ。小さな会社だったんだけど、十年もすれば父の会社ほどではなかったがそれなりに大きくなっていって社員もかなり増えていった。
かなりのお金を稼ぐことになったから私も専業主婦で苦労なく生活することができてきたのだ。
そういうことを友人に話すと「なんて薔薇色の人生なの」って羨ましがられるんだけど、物心つくころからそんな感じだから薔薇色とは思うことはなかった。
というか薔薇色ってどんな色なんだ?
一般的なバラの色といえば赤をイメージするけど、いまどきのバラっていろんな色があるじゃん。
赤だけでなく、青だってある。
黄色も紫もあったような気がするんだけど。
いったい私の人生ってどんな薔薇の色に見えるのかしら?
私は四十年の人生を振り返りながら考えてみる。
でも思いつかない。
薔薇の色がどんなものなのかさっぱり思いつかないのだ。
私は何色?
生まれた頃から人に羨ましがられるような人生なのだから眩しく輝く色なんだろうなあ。
いや本当にそうなのか。
私は華やかな薔薇の色をしているのだろうか。
そんなことを考えながら、私の足はふいに花屋の前で止まる。
店の前にはみごとな薔薇がいろんな色を付けながら並んでいた。
本当にいろんな薔薇の色がある。
どれも美しくて華やかだ。
「いらっしゃいませ」
私が薔薇を眺めていると店員さんが笑顔を浮かべながら話しかけてきた。
「何をお求めですか?」
「いえ。そのちょっと薔薇がきれいだなあと思いましてつい見とれていました」
私はなぜか恥ずかしくなる。
「そうですか。きれいですよね。薔薇って人の心を穏やかにする感じがしますよね。幸せを与える花じゃないかと私は思います」
「幸せ?」
その言葉に私はなぜか引っかかりを覚えた。
薔薇色の人生=幸せ
そういうことなんだとは思うけど、改めて言われると果たして私の人生ってそんなに幸せだったのかとも考えてしまう。
茨ではないにしても薔薇色だったわけじゃない。
私は結局のところ自分の足で歩いていないんじゃないだろうか。
私はやりたいことを何一つせずにきたんじゃないか。
それで幸せといえるのかしら?
「お客さん? どうかしましたか?」
店員さんは怪訝な顔をする。
「あっすみません。あの薔薇を一本いただけますか?」
「はい。有難うございます」
私は花屋で買った白色の薔薇を握りしめながら、おそらくまだ誰もいないだろう家へと帰ることにした。
薔薇色の人生 野林緑里 @gswolf0718
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