バラ色仮面は笑わない

ソコニ

第1話  バラ色仮面は笑わない



「ただいま」

「おかえりなさい、ご主人様。今日も悪を成敗してきましたか?」


玄関で出迎えてくれたのは、最新型お手伝いロボットのメイド・バラ子だ。僕の正体がバラ色仮面だということは、この家では彼女だけが知っている。


「いや、今日は犯罪者を捕まえられなかったんだ」

「まあ、それは珍しい」

「だって...」


僕は疲れた様子で革のソファに身を投げ出した。


「犯人が『人生なんてバラ色じゃない!』って泣きながら自首しちゃったんだよ」


バラ子は首を傾げた。

「でも、それは良かったことではないですか?」


「そりゃそうなんだけど...」

僕は天井を見上げながら続けた。

「僕のキャッチフレーズ『この世界をバラ色に染めてやる!』を叫ぶ前に自首されちゃって、なんかモヤモヤするんだ」


実は、この「バラ色仮面」という正義のヒーローになったのには理由がある。


昔々、祖父が遺した謎の仮面。それをつけると、相手の「本当の願い」が見えるようになる。ただし、その願いは必ずバラ色に見える。文字通り、世界がバラ色に染まって見えるのだ。


「ご主人様、データベースによりますと、今月の犯罪者の自首率は平常の327%増です」


「そうなんだよ。最近の犯罪者たち、僕が現れる前に『人生なんてバラ色じゃないけど、これじゃダメだって分かった』って自首しちゃうんだ」


「それは...ご主人様の影響ですね」

バラ子が優しく微笑む。


「どういうこと?」


「街の人々は、バラ色仮面の噂を聞いているだけで、自分の人生を見つめ直すようになったのです。ご主人様は、仮面の力を使わずして世界をバラ色に染めているのかもしれません」


「でも、それじゃあ僕の存在意義が...」


その時、緊急ニュースが流れた。

『速報:謎の怪人「モノクロマスク」が市役所を占拠。「世界から色を奪う」と宣言』


「よし!」

僕は立ち上がった。


「どちらへ?」

「決まってるだろ。あいつに教えてやるんだ」

仮面を付けながら、僕は宣言した。


「人生は、時にはモノクロームに見えることもある。でも、それを認めた上で前を向くことで、世界は自然とバラ色に染まっていく...ってね」


「素敵なお言葉です。でも、ご主人様」

「なに?」

「その前に、パンツは履いたほうがよろしいかと」


僕は慌てて下を見た。

確かに、興奮のあまりパジャマ姿のままだった。


「バラ子、今のは秘密だぞ」

「もちろんです。この件は、私のハードディスクから完全に削除されました」


そう言いながら、バラ子は小さくウインクした。


これが僕の日常。

世界をバラ色に染める戦いは、今日も続く。

たとえ、時々パンツを忘れることがあっても。


(終)

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