第3話 あなたがくれた銀のバラ
文化祭まであと少し、長かったようで短かったこの文化祭実行委員も終わるのかと思うとなんだか感慨深いものがある。
虹色のバラはなんとか完成した。茶髪が
それで、「このクラスメイトと出会えて本当に良かった」っていうのを表しているらしい。
「ねえ、ねえ、ねえ!」
「うるさい」
無視するようにしたら、こんな感じでうるさくなった。頭の中がお花畑なのかもしれない。可哀想に……。それで、素直に恋花の質問には答えることにした。
「早乙女くんとはどこまでいったの」
「何も起きていない」
何となく、言うのもめんどくさくて嫌だからもう良いでしょって言ったのに恋花は「今、カップルが成立しそうなのは静香ちゃんと早乙女くんなんだよね」と言って誤魔化された。
「静香ちゃん表情にめっちゃ感情が出るから面白いんだ」というような恐ろしいことを言われた気もするけど、相手に伝わっていなければ、言ったことにならない、
「話しててドキドキしないの?」
「緊張でドキドキする」
ドキドキは未だにする。それは、恋花みたいに個人的にいつ縁が切れてもいい相手と違って、文化祭実行委員の間は仲をギクシャクさせる訳にはいかないからだ。
「そのドキドキってまだするの? それって緊張じゃないよ。恋だよ、恋!」
本当にやめて欲しい。自分でも半年も顔を合わせてて、「緊張するのか?」って疑いたくなっているんだ。しかも、茶髪が私と違ってエゴで仕事を押し付けているわけじゃないって分かってから何だかよりドキドキしてる気がする。
それは、彼が思っていたより良い人だったから、悪い人だったら適当にできるけど、できなくなっただけなんだ。
そうだから、恋じゃない。恋じゃないんだ。私は知っている。小説の中でこんな風に恋に落ちてバカになって自分が侵食されていくのを。
推しがよく分からない男に狂わされているのを見て怖かった。恋っていうのは自分を失うことなんだ。だから、恋はバカのすること。私はまだバカじゃない。
彼の隣にいるだけで胸が高鳴るなんてことは起こっていないから。触れただけでびっくりしても嬉しさは感じないから。
「ほら、私は恋をしていない」
心の中でそっと囁く。恋花との会話は心が乱されて疲れる。そして、彼女はそんな私を見て笑っているのだ。恋愛脳って呼んでバカにしてたけど、悪魔かもしれない。
――――――
文化祭で一年生の文化祭実行委員のすることはほとんどない。各自が自分のクラスの展示物をみんなで作って絆を深めることを目的としているかららしい。
だから、文化祭実行委員はクラスのみんなと一緒にいられるように当日は何もすることがない。最近、付き纏われている恋花と共に文化祭を回って楽しむ。
楽しむというより、彼女のテンションの高さにやられて連れ回されていると言った方が良いかもしれない。
そうこうしているうちに文化祭は終わり、茶髪ともこの後片付けが終われば、関わることもないだろう。思わないところで、彼の内面を覗いてしまったけどこれで彼とは「さよなら」だ。
うん、大丈夫。さよならって思っても苦しくない。彼を見続けても普通にいつも通り緊張しているだけ。問題なし。私の視線に気づいたのかあらかた片付け終えた彼はこちらを向く。
「金と銀、どっちが好き〜?」
「……銀?」
どういう質問だろう? よく分からないけれど、金はがめつい気がするからあまり好きじゃない。
「今までありがとうね〜」
「え? ええ!!」
彼は小さな銀のバラを私に1本手渡した。ヤバい、顔が熱い。耳が熱を持っている。嘘だ、ウソだ、うそだ! 私は恋してない。してないんだ。
っていうか、こんなんで落ちたら私ってちょろすぎでしょ。どこのチョロインよ。こんな需要ないって。
でも、でも一本のバラって「一目惚れ」とか「あなたしかいない」だったよね。バラの意味とか考えてやっていた彼がそれを知らないはずがないし。
つまりそういうこと? どういうこと?
「じゃあ、ありがとうね〜」
彼は残りの金と銀のバラを持って教室から出ていく。混乱している間に片付けは終わったらしい。
「え、え〜と。私って今、告白されたってことだよね?」
自分でも分からないけれど、この手の中にダイヤモンドの如く輝く一輪のバラがある状況は客観的に見てそういうことみたいだ。
「つまり、返事! 返事をしなくちゃ」
彼は私が混乱をしているのを見て、明日改めて聞くのかもしれない。その必要はない。だって認めたくないけど、今までにないくらい心臓がドキドキしているんだから。
教室を出て行った
「あ! 静香ちゃんストーップ!!」
「邪魔!
彼女を無理やり押し通して向かった先に勇人くんはいた。
「俺と付き合ってください!」
「え! あ、ありがとう」
両思想愛の絵がそこにはあった。彼の手には教室を出る時にあった金のバラが2輪と銀のバラが1輪の計3輪。彼に影響されて調べた私は知っている。
バラが3輪の時の意味は「告白」と「愛しています」。そうか、私のもらったこの銀のバラは3輪にするのにいらなかったから……
耐えられなかった。そんなの! そんなのあんまりじゃないか!
「静香ちゃん……」
いつもはうるさいのにこの時に限って好音の声は優しかった。
「好音ちゃん……」
私は彼女の胸の中で唇を噛み締めた。そう、始めから私は恋なんてしていなかった。恋はバカのすることで、私の学力は学年トップクラスだから。
(立体ハート折っておけば良かった……)
そんな後悔は何の役にも立たない。私は彼女の胸から顔を離すとすぐにでも情けない声が漏れそうだった。彼女の手のひらが優しく頭と背中に当てられる。
「ごめんね……、その気にさせるようなことを言っちゃって」
好音は悪くないから、勝手に勘違いした私が悪かったんだから。彼女はそんな私が落ち着くまで宥め続けてくれた。悪魔なんて思ってごめんね。天使だよ。
救いは彼らが私たちのいる方に来なかったことだろうか?
彼にもらった銀のバラは文化祭で長い時間飾られていたせいかくすんで見えた。なんでこんなバラが綺麗に見えたんだろう。
恋は私の心に傷を残した。けれど、得難い
《完結》銀のバラ コウノトリ🐣 @hishutoria
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