薔薇色の選択

無雲律人

前編

 専務の一人娘との婚約が決まった。


 俺は柚山ゆやまとおる、二十九歳で総合商社に勤めているサラリーマンだ。


 MARCHレベルの大学をトップの成績で出て、新卒で勤めたこの会社で必死に仕事をして出世街道に乗り、今は課長だ。


 その俺は出世の糸口を掴むために専務派に所属していたが、つい先日開催された専務のバースデーパーティーで、一人娘の水流園つるぞの華子かこに気に入られ、何度かデートをして婚約にこぎつけた。


 俺の人生は薔薇色じゃないか。


 華子は大企業の専務の娘にふさわしい落ち着きと品格があり、容姿も端麗で薔薇色のような真っ赤なリップがとても似合う華やかな女だ。スタイルだって良い。


 デートのたびに高級レストランに連れて行く必要のある女だったが、将来への投資だと思えば安いものだ。


 華子は身に着けているものもハイブランドばかりで、正直金の掛かりそうな女だと思ったが、全ては俺の出世のためだ。


 専務が社長の椅子に収まれば、俺だって将来は社長になれるかもしれないし、社長は無理だとしても役員の座は堅いだろう。


 このまま行けばもうすぐ部長に昇進だし、俺の人生の選択は今まで一度も間違っていなかった。


 大学だって、もっと上を狙おうと思えば狙えたが、トップの成績で卒業するために若干ランクを落とした。その結果が今の一流商社への就職ってわけだ。


 華子は男を立てる事を知っていそうだし、伴侶選びにも俺は失敗しなかったって事だ。


 ああ、人生薔薇色だ。全てが順調だ。

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