第35話 新人戦の次は、女の戦いが始まる。

「準決勝だ、これを勝てば後ひとつだぞ」

「はい、頑張ります」

「よし、いってこい!」


 準決勝を勝利し、残るは決勝という所まで駒を進めたのだけど。


「後輩の仇を、取らないといけないんでな」


 最後の相手は、初日五回戦目で当たった強豪校の二年、現役のキャプテンになる人だった。

 確かに強かった、技術やメンタルもさることながら、単純にフィジカルが凄い。 

 どれだけ努力すれば、この人に勝てるのか。

 試合が終わった後に、反省しか出来ないぐらいの完敗。


 準優勝。 


 こうして、僕は人生初の新人戦を、輝かしい栄光と共に、幕を閉じることが出来た。



 ☆



「それでも、涙屋敷なみだやしきから一ゲームは取ったんだ、大したもんだよ」

「そうそう、俺達は早々に負けちまったからな」

「キャプテンって名乗れねぇよ。あーあ、恥ずかし」


 共に参戦していた二年生の先輩方が、僕のトロフィーを羨まし気に手に取る。

 表彰式は緊張したけど、なんていうか、とても気分が良かった。

 

「けどま、俺の相手がそのまま優勝した訳だから、俺は恥ずかしくはないかな」


 氷川先輩の初戦の相手が、僕の決勝の相手だったらしい。

 涙屋敷なみだやしき宗次郎そうじろう、って名前だったかな。

 もう二度と当たりたくないと思ったから、なんか覚えちゃったよ。


「氷川な、俺はお前が決勝の場に立つと思ってたけどよ」

「ある意味、俺の初戦は決勝みたいなもんだろ? 俺と有馬の二人がかりで挑んで負けた。でも、俺は2-3、有馬は1-3。トーナメント次第じゃ、このトロフィーは俺のだったのかもしれない、そうだろ?」


 確かにそうだ。

 僕は氷川先輩には勝てない。

 今日試合で使った技術のほとんどが、氷川先輩から教えてもらったもの。


「そうですね、ですが、いずれは追い抜きます」

「お、なんだよ、可愛くないな。そこは素直に認めておけよ」

「素直に認めた上で、追い抜きます」


 だって、いつまでも負けでいいほど、僕は物分かりが良くないから。

 くしゃくしゃに頭を撫でられた後「それでいい」と、氷川先輩は言ってくれた。

 それがちょっと、嬉しかった。


 先輩方と喋っていると、顧問の先生がぱたぱたとやってきた。


「有馬君、校長先生が報告を受けたいって。今から高校戻るから、一緒に車で行こう」

「校長先生、はい、分かりました」


 準優勝だから、そういうのも必要になるのか。

 もしかして垂れ幕とか用意されちゃうのかな。


 なんか照れるかも。


 慌てて荷物を片しつつ、はっと気づく。

 名月達、絶対に一緒に帰るって思ってるよな。


「先生、ちょっとだけ時間下さい!」

「ああ、わかった。荷物積んでおくからな」

「ありがとうございます! 失礼します!」

 

 まだ人の多い体育館を急ぎ歩き、外へと向かうと。

 体育館を出た辺りの所に、四人がいた。

 

 四人……じゃないな、六人?

 背の小さいブロンドヘアのセミロングの女性。

 もう一人は背の高い、髪型を七三にし、眼鏡を掛けた男の人。


 って、母さんと父さんじゃないか!


「え、なんで!? 父さんと母さん、来てたの!?」


 父さん、腕組みしながら僕を見てため息を吐いた。


「来てたのは随分だな。息子が大会で優勝するかも、なんて言われたら、来るに決まってるだろう」

「昨日さっちゃんが教えてくれたからね、パパに伝えたら、絶対に行くって聞かなかったの」


 マジか、一言くらい教えてくれても良かったのに。

 ああ……そういえば四人の横にいたかも、思い返してみれば、観客席にいたような気がする。


「里野君、さっちゃんって呼ばれてるんだね」


 名月に嬉しそうな顔をしながら言われると、訂正できなくなる。

 

「じゃあアタシ等も、これからはさっちゃんって呼ぶことにするか」

「♪さっちゃんはね、私が大好きホントはね。だけど小さいから、私が好きって言えないんだよ。可愛いね、さっちゃん♪」

「ふはっ、かがみ何その歌、ウケる」


 ウケるな。

 くそ、せっかく下の名前呼びで定着させようと思ったのに。

 しかもさっちゃんって、呼ばれるだけで恥ずかしいんだけど。

 

「それで、何かあったの?」


 母さんに覗き込むように問われて、目的を思い出す。


「え? あ、ああ、そうだった。僕、これから高校に行かないといけないみたいで、なんか校長先生に報告しないといけないとか? だから四人には申し訳ないんだけど、適当に時間潰して、それから家に来てもらえないかな……って、思ったんだけど」


「あらそう。なら全員、今から家に来てもらおうかしら?」


 お母様?


「準優勝のお祝い作らないとって思ってたんだけど。みんな、手伝える?」

「はい、喜んで!」


 いの一番、名月が元気よく手を挙げてくれた。

 続いていつも通り、ヒラリさん、鏡さん、メイさんが次々に挙手をする。


「アタシは手伝えるかどうか……とりあえず、行きます」

「いき、行きます! お義母さん、私、お義母さんの義娘として頑張ります!」

「有馬家の味をマスター出来れば、いろいろと後が便利そうね」


 何か若干一名、気が早い子がいるような。

 五人も並んで作業出来るキッチンじゃないだろうに。

 母さんが指示して、皆が料理するって感じになるのかな。

 

「サト」

「何、父さん」

「あの四人、全員サトの彼女なのか?」

「いや、全員彼女じゃない」

「そうか。……そうなのか? じゃあ、母さんの審美眼次第ってところか」


 ああ、なるほど。 

 あの四人の中で、誰が一番僕に相応しいかを母さんが見定めるのか。

 って、そんなことする必要ないんだけど。


 あー、ダメだ、母さん完全に目が光ってる。

 意味深な笑みを浮かべているし、後でいろいろ言われそ。


「あのね父さん、一応、本命の子はいるんだけど」

「見れば分かる、あの一番背の小さい女の子だろ?」

「違う、それは浴内鏡さんって言って、一番ヤバイ子だよ」

「そうなのか? じゃあ……あの背の高い子か。いいな、ああいうタイプ、パパの好みだ」

「それも違う、鮫田ヒラリさんは本命の子の友達」

「なに? じゃあ、あの馬のイヤリング付けてる子か?」

「猫屋敷メイさんは何ていうか……彼女の彼女?」

「となると、あのボブカットの子か。サト」

「なによ」

「分相応にしておいた方がいいと、父さんは思うがな」

「どういう意味だよ」

「お前には荷が重い、彼女は高嶺の花子さんだろ」

「ほっとけ」


 確かに名月は高嶺の花子さんだけど。


「……!」


 僕の視線に彼女だけ気づいて、こうして小さく手を振ってくれるんだ。


「ふむ……これは脈あり、か?」

「どうでもいいでしょ。じゃあ全員の送迎宜しくね」

「ああ、分かった。サト」

「なによ、もう行かないとなんだけど」

「準優勝、おめでとう」


 それって最初に言うべき言葉なんじゃないの?

 なんて、一瞬、天邪鬼なこと考えちゃったけど。


「ありがとう、じゃ、また後で」


 お祝いしてくれるだけで、胸がいっぱいになる。

 こんなの、中学校じゃ味わえなかったな。

 高校に来て良かった、諦めないで、本当に良かった。 

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