Chapter ⑥:怪談雑記#2【終】


【胸糞注意】怪談雑記〜きくの保育園〜(2020年11月28日公開)


東海林さん「事故が起こった時、悠介君は職員室で事務作業を黙々と行っていました。騒ぎを聞きつけて彼も事故現場にかけつけたのですが、その際に仲村先生が彼に向かってとんでもないことを言ったんです。」


りっきー氏「なんて……?」


東海林さん「男の癖に気を利かせて止めに来なかったあなたが悪いのよって。だから、あなたがこの事件の全責任を取りなさいって。意味不明ですよね?子供達のプライバシー保護ってことでプールから遠ざけていた悠介君に責任を押し付けるなんて。」


りっきー氏「あの、悠介……さんは反論しなかったのでしょうか?」


東海林さん「……悠介君は入って数週間ですっかりみんなに怯えてしまって反論ができなかったみたいです。女の人に手荒な真似をしてはいけないっていうのもあったかもしれませんけど。嗣晴さんと世那さんへの説明の際も、彼がプールでの監督役で女性保育士二人の体調を気遣って休ませたって嘘ついたんです。父親の嗣晴さんは勿論、母親の世那さんはえらく憤慨してました。男性保育士の悠介君が子供達のお着替えについていた点が非常に許せなかったようで、怒りの矛先が莉音ちゃんの死より、そっちの方に向いていたようにも思えました。」


りっきー氏「それも嘘っぱちなんですがね。裁判の流れはどうでしたか?」


東海林さん「悠介君のご両親と仲村先生を相手取って賠償請求をしました。私は証人台に立つことはなく、傍聴席で裁判の様子を見ていましたが本当に嫌な時間でした。ご両親の主張がなかなか裁判官に聞き入れてもらえなかったんですよ。というのも、悠介君が脅迫ではあるものの、自分に責任があると最初に認めてしまったからです。だから私自身も何もできず、裁判は不利なままでした。」


りっきー氏「あれ?なぜ、悠介さん本人ではなく、ご両親に賠償請求をしたのでしょう?」


東海林さん「……」


りっきー氏「東海林さん?」


東海林さん「自殺しました。両親によれば、泣き声とも取れるような唸り声を発しながら、自宅の自室の壁に何度も頭を打ちつけていたそうです。書類送検される前の、警察がまだ捜査をしている時に。悠介君には兄弟がいないとのことで、亡き後はご両親が彼の遺産相続を済ませていたらしく、そのため二人を相手取って損害賠償を民事で請求したんです。ちなみに仲村先生は裁判の後に業務上過失致死罪で逮捕されて、園長も辞めることとなりました。」


りっきー氏「やっぱり予想通りだったか。本当に胸糞が悪い話で………あれ、どうしたんですか?両耳を押さえて、耳鳴りですか?」


東海林さん「すいません……今なんか気持ちの悪い声が聞こえてるんです。後、壁にドンドン物をぶつけるような音も。いやっ、何なのよこれぇ。…………やっぱり、見捨てた私を許してくれないみたいね。」

りっきー氏「東海林さん……それどういう、意味ですか?」


東海林さん「な、何でもないです!ところでりっきーさん……今日はこの辺で終わりにしてもらって、いいでしょうか?」


りっきー氏「分かりました。では後日、可能でしたら再度お話しをお聞かせいただ……」



東海林さんに謎の幻聴が聞こえ始め、りっきー氏が話している途中で音声は途切れた。

彼女が聞いた声はきくの保育園の元保育士・小関さんが聞こえていたものと同じであると思われる。莉音ちゃんの溺死の責任を無理矢理押し付けられた、水野悠介さんの最期。

動画の最後には黒色の背景に白い明朝体で、


「東海林さんとの取材続行が可能な場合、後日改めて続きの動画をアップします。」


というテロップが現れた。

会社員として働きながら、趣味でYouTubeに動画を投稿しているりっきー氏は、おもに旅行やグルメ系の動画を高頻度で投稿していた。

今回のような怪談雑記は初めてで、これ以降に『【胸糞注意】怪談雑記〜きくの保育園〜』の続編はおろか、その他の動画がYouTubeに投稿されることはなかった。SNSにおいても同様である。



これ以上、きくの保育園で発生している怪奇現象について知る手がかりを見つけることはできなかった。その気になれば事件の真相を調べることもできると思うが、事件の当事者でもない私がそれを行った所で誰に対してもメリットはない。と同時に、プライベートな領域を大いに侵害してしまう行為でもある。

加えて、きくの保育園で発生している怪現象の危険性も確認することができた。

ラジオアーカイブにおいて、小関さんは園を退職したことにより怪異から解放されたと言っていた。果たしてそれは本当なのか?

現に東海林さんは違う。

彼女はりっきー氏との取材中に呻き声と音を聞いていた。きくの保育園外でも怪異が尾いてきていたことになる。






そこで皆さんに一度試していただきたい。

静かにして、耳を澄ませて。

何かが聞こえたりしないかどうかを。




         《 完 》

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【短編怪談】きくの保育園(連載6話) 佐藤莉生 @riosato241015

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