【短編怪談】きくの保育園(連載6話)
佐藤莉生
Chapter ①:倉間さんの話
最近、職場に復帰した倉間礼子さん(38)からこんな話を聞いた。
彼女には3歳の一人娘・林子ちゃんがいて、今年から葛飾区高砂に所在する自宅近くの保育園に通わせていた。
他の園児と仲良くできるだろうか?
登園したはいいものの、急に寂しくなって泣き出したりしないだろうか?
など、新しい生活に対する不安も少しあったが、林子ちゃんは保育園での毎日に新鮮みを感じているようで。帰宅する度に「ほいくえん、たのしかった!」とニヤニヤしながらその日の出来事を話していた。
最近ではお気に入りの先生ができたらしく、林子ちゃんは両親を前に、何度も何度もその先生の話をしているという。
しかし愛娘が楽しそうに喋っているとはいえ、倉間さんと旦那さんは林子ちゃんの言う「お気に入りの先生」の存在に違和感を感じている。
「そのお気に入りの先生っていうのが、若い男の先生らしいのよ。●●●●(私の名前)君と同じ20代くらいの。」
「へぇー。やがてそこから恋愛に発展したりするんじゃないですか?漫画みたいに。」
私は悪ノリして倉間さんを茶化してみる。
すると彼女は怪訝そうな表情を浮かべて腕を組み、考え込んだ。
「でもねぇ、変なのよ。だってその保育園には男の先生なんていないんだから。女の先生だけのはずなのに。」
倉間さんは林子ちゃんを預けるための保育園を決めるに当たって、男性保育士がいる園を避けていた。理由は言わずもがな、昨今男性保育士による児童への猥褻行為を働く事件が多発しているためだ。保育園や幼稚園だけでなく、小学校でも同様の事件が多発している。
差別をしている訳ではないのだが、そのような事情もあるので倉間さんは男性保育士の存在をひどく警戒していた。
「入園説明会ではちゃんと男の保育士さんはいないって言ってたのに、これはどういうことですか?って問い合わせみたらやっぱりそんな人はいないって言うのよ。」
正式には在籍していないが、林子ちゃんはその男性保育士の存在をしきりに訴える。埒が明かなくなったので倉間さんは、林子ちゃん本人にその男性保育士について聞いてみた。
・前髪をハの字に分けている
・身長は高め
・体型は細身
・目が大きい
・優しそうな印象
林子ちゃんの証言から分かった男性保育士の特徴は以上の5点。
次いで倉間さんはお絵描きの時間に「おともだち」というお題でクレヨンで描いたという、件の男性保育士を見せてもらった。
その絵をスマホで写真に撮ったというので、私も見せていただいたくことができた。
「なんで、灰色と黒でしか塗られてないんですかね。周りに描かれている他の子供達は色鮮やかなのに。」
太陽と雲が描かれた青空を背景に、子供達4人と灰色と黒で描かれた人物が一人。これが林子ちゃんの「お気に入りの先生」だというのか。
男性保育士を中心に左側に男児2名、右側に女児2名が並んで朗らかな顔を浮かべている。因みに林子ちゃんは中心の男性保育士のすぐ右隣に位置し、ポニーテールの髪型で淡いピンクの服を着ていた。
林子ちゃんによれば、この男性保育士は休み時間になると保育園のどこか、子供達の目につく場所に現れる。そこから動く訳でもなく、ただ現れた場所に佇んでいるのだという。
話しかけてみると反応を示し、面白い話をしてくれたり、稀に絵本の読み聞かせをしてくれることもあるのだそう。林子ちゃん以外の何人かの子供達にもこの男性は見えている。
「黒っぽい影みたいな見た目で佇んでいるなら、普通に考えて子供達には怖がられそうなんですけどね。逆に人気者になっているのが少し不思議です。」
「それよね。何だか気味が悪いからさ、よそに転園をしようかなとも思ってるんだけど。今の所、娘や他の子供達が実害を被ってる訳でもないし、送迎もバスでしてくれるからとても助かってるし、離れがたいのよね。」
*
後日、倉間さんからYouTubeで例の保育園で起こった奇妙な出来事について紹介をしている動画を見つけたというLINEが届いた。
添付されたURLをクリックする。
《 Chapter②へ続く 》
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