第3話







「あたくし、ローレライ王国では清潔な令嬢として有名なのに、まさか・・・こんなに垢塗れだったとは・・・」


 恥ずかしい~!!!


「この料理・・・とても美味ではないか!この家の料理人は一流の料理人として名を馳せている御方なのか!?」


 髪の毛がべたついているからなのか、何度もシャンプーしなくてはいけなかったわ


 ボディソープをつけたスポンジで身体を洗えば垢が落ちてくるわ


 ジャージという服は着心地がいいわ


 紫苑と銀河が作る料理はローレライ王国とは比べ物にならないレベルで美味しいわ


 マリーアントニアのコスプレをしている女はカルチャーショックを受けつつ、自分が不潔であったという事実にショックを受け、そのショックから立ち直った後は料理に舌鼓を打っていた。


「そういえば自己紹介がまだであったの」


 腹が満たされた事で落ち着いたのか、コスプレイヤーは名乗る。


 自分の名前はマリーアントニアといい、ローレライ王国の公爵令嬢にして王太子であるミッシェルの婚約者


(((ローレライ王国?マリーアントニア?ミッシェル?)))


「親父?お袋?コスプレイヤーって素の状態でもそのキャラになりきっていないといけないのか?」


「まさか!」


 イベント時の撮影会とかではキャラクターになりきるが、それ以外では素の自分になるのだと美沙都が否定する。


 自分達はお姉さんがなりきっているキャラ名を聞きたいのではなく本名を知りたいのだと、紫苑がコスプレイヤーに問い質すのだが、女は頑なに自分の名前はマリーアントニアなのだと主張している。


 あ~っ・・・


「お姉さん?今の貴女はコスプレではなくジャージですから、マリーアントニアになりきらなくてもいいのですよ?」


「あたくしはマリーアントニアになりきっているのではない!正真正銘、本物のマリーアントニアだ!!!」


「親父、お袋。もしかしてこの女って中二病?」


「銀河・・・?朝霧家の者である私も銀河も中二病設定そのものだから、彼女の事を中二病というのは止めなさい」


「俺達は事実だから中二病じゃない!コスプレのイベントでもないのにゲームキャラのコスプレをしてマリーアントニアになりきっている彼女の方が中二病じゃないか!!」


 身体の色素の薄さと人間離れしている美貌、強靭な肉体、視力・聴力・腕力・脚力・瞬発力・敏捷性など───異常なまでに高い身体能力と運動能力を持つ朝霧家の先祖は鬼だと言われている。


 当時の日本人にとって自分達とは肌と髪の色が異なる異国の人間を『鬼』と呼んでいたので、朝霧家は外国人の血を引いているというのが周囲の見解だ。


 しかしそれは間違いで、朝霧家は本物の【鬼】の血を引いているからこそ代を重ねた事で先祖の血が薄くなってしまった現代でも全ての面で人間離れしている。


 と同時に紫苑と銀河は朝霧家の直系であるが故に吸血鬼のように、満月の時だけだが本来の姿に戻り血を求める衝動に駆られるのだ。


 まぁ紫苑は美沙都から血を飲ませて貰う、銀河は輸血用の血を摂取するという形でその衝動を抑えているので問題はない。


「事情を知らない人が見ればマリーアントニアになりきっているコスプレイヤーさんだけが中二病でしかないけど、私にしてみれば・・・あなたと銀河も中二病満載よ?」


「「俺達は事実だから中二病じゃない!!!」」


「あの・・・聞いても良いか?お主達が先程から口にしている【ちゅうにびょう】とは何なのじゃ?」


「中学二年生前後の子供にありがちな言動や態度を表す言葉ですね」


 例えば・・・そうですね



『俺の右手に宿りし闇の力が疼いて破壊衝動に駆られる』


『世界の命運を握っている俺は暗黒の組織〇〇に狙われている』



 といった感じのセリフを平気で口にしたりとか、ですかね?


(美沙都は彼女をコスプレイヤーだと思っているみたいだが・・・。もしかして彼女は・・・)


 コスプレイヤーであれば【中二病】を知っていても不思議ではないのに、その言葉の意味を尋ねてくる彼女に疑問を抱きつつも作家の性なのだろう。目の前に居る女が何者なのかを頭の中で推測を立てながらも紫苑は答えを返す。


「私からマリーアントニア殿に幾つかお尋ねしたい事があるのですが・・・よろしいでしょうか?」


「よかろう。あたくしで答えられる事であれば答えようではないか」


「では・・・」


 紫苑は問うた。





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