第2話







 長くて艶やかな金髪


 月の光を受けて咲く花のように穏やかな雰囲気と儚い美貌


 近代ヨーロッパを舞台にした漫画やゲームに出てきそうなゴージャスなドレス



((この女・・・))


 我が家に出現した美女・・・というか【異世界の聖なる乙女の清らかな愛が世界を救う】の登場人物の一人になりきっている不法侵入者なコスプレイヤーを警察に突き出そうかと思っていた朝霧一家であったが──・・・。


「「「くっさ!」」」


 マリーアントニアのコスプレをして役になりきっているが故に風呂に入る事なく、そこから生じる体臭を誤魔化す為の香水を吹きまくっているのだろう。


「み、美沙都・・・まずはこのコスプレイヤーを・・・風呂に・・・」


 うっ!


 ガクッ


 鼻がひん曲がってしまうと言えばいいのか、きつ過ぎる香水の匂いと臭いに思わず鼻を摘まんでしまう三人であったが、まずはコスプレイヤーを綺麗にする事が最優先だと判断した紫苑は美沙都に指示すると、鬼の血を引くが故に人間よりも五感が遥かに優れている朝霧家当主は倒れてしまう。


「あ、あなた!?いや・・・っ!死なないで!!!銀河、西崎さんを呼んで来て!!!」


「親父!お袋!こんな時に下らないコントをしてんじゃねぇよ!俺は西崎さんを呼んでくるわ」


 鬼の血を引いている銀河も紫苑と同じように人間よりも五感が優れているが、父と比べたら少しは耐えられるので母の言葉に従い銀河は家政婦の西崎を呼ぶ為、リビングを出てキッチンへと向かう。


 待つ事数分


「お袋!」


「奥様!?」


 銀河が家政婦の西崎 菊子と共にリビングへと足を踏み入った。


「・・・くっさ!!!コスプレイヤーから漂う香水と体臭が如何ともしがたい不協和音を奏でてるーーーっ!!!」


 これが本当のフィルハーモニー!!!


「西崎さん!彼女を風呂に入れるから手伝って頂戴!」


「わ、分かりました・・・っ!」


「な、何をする!!?毎日身体を拭い、月に一度入浴しているあたくしは清潔な令嬢として有名なのだぞ!!!」


「「「不潔っ!」」」


「銀河。私と西崎さんは彼女を風呂に入れるから、銀河は紫苑と一緒に夕食の用意をして頂戴」


 倒れている紫苑と、母親がゲームをプレイしているところを見ていただけなのに何故か疲れ切った顔をしている銀河を残して美沙都と菊子が喚き散らしているコスプレイヤーを浴室へと引き摺って行く。


「分かった。・・・・・・親父、お袋は西崎さんと一緒にコスプレイヤーを風呂に入れるから俺達は夕食を作ってくれって」


「そうか・・・」


 それにしても何だか今日は疲れたと、意識を取り戻した紫苑と銀河は夕食を作る為にキッチンへと向かうのだった。







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