第3話 お風呂屋さんというもの
無料案内所は、結構人がいた。
そもそも、今くらいの時間に、風俗店に行くという人も少なくない。
一番多いのは、7時くらいからというのが多いのかも知れない。
というのも、
「会社が終わってからくるにはちょうどいい」
ということで、そういう客は、最初から予約をしているだろうから、案内所に姿を出すことはない。
迷っている間に時間がどんどん過ぎるのと、この時間は多いというのが分かっているので、予約をせずに店にいくと、かなり待たされるということが分かっているからだ。
しかし、午後九時くらいというと、
「飲み会の後でフラッと寄ってみたい」
という自分のような人ばかりであろう。
だから、いきなり行くと、
「もう予約でいっぱい」
と言われてしまったりすることを思えば、案内所で、紹介される方が、時間の無駄にはならないだろう。
九時に終わって店にいくと、九時半くらいになったりする。もし、すぐに入れず、
「一時間待ちです」
などということになると、
「完全に、ラストの客」
ということになり、
「帰りが最終電車に間に合うのか?」
となると、スケジュールがまったく狂ってしまう。
それを思えば、
「無料案内所が一番安心」
ということになるのだ。
最近の自分は、お風呂屋さんに行くと、
「最低でも、60分」
と決めている。
しかも、ほぼ60分ということはない。あるとしても、その子が、
「60分しか開いていない」
という場合だけで、その時は、
「じゃあ、他の子」
ということになるのだが、どうしても、その日、
「このまま帰るのは嫌だ」
と思った時、
「しょうがない」
ということで、
「不本意ながら、60分コースにする」
のだった。
というのは、
「60分コースやそれより短いコースは、もったいない」
と思う。
他の人たちで、案内所を利用している人は、
「結構早朝の40分コースなどが多い」
と言われる。
理由としては、
「前の日から飲んで、朝帰る前に、ちょっとソープにでも行って」
と、友達数人で来る場合である。
だから、
「ちょっとムズムズしているので、解消して」
ということであって、しかも、
「友達と一緒」
ということであれば、短い時間でちょうどいいのだろう。
しかも、若い連中などで、時間が迫るという感覚もない。
しかし、一人で遊びに来て、いつも定期的に来ている人間とすれば、
「その日だけの予算」
という計算はしない。
だから、
「どうせなら、その一回が、楽しい思いをしないと面白くない」
と感じるのだ。
いくら安いからといって、会話もなく、最後には、
「二度と来ない」
と思うようなことになるのであれば、最初から、
「金を使っておけばよかった」
と感じるのだ。
だから、
「こういうお店で、自分なりの上限はしっかりと持っているが、大衆店として、の予算の範囲内であれば、それでいい」
と思うのだった。
その日は、案内所で、
「ちょうどいける女の子」
ということで話を聞くと、ちょうど、常連の店の女の子が開いていて、しかも、本指名ということで、
「なんだ、最初から予約を入れていたようなものじゃないか」
ということで、事なきをえたのだった。
実際に、店からスタッフが迎えにきてくれたので、相手も自分の顔を見ると、安心した表情を浮かべた。
普段から、フリーであったり、案内所からの客に対しては、一定の警戒心を持っているということであろう。それだけ、
「女の子を大切に思っている証拠だ」
ということになるのではないだろうか。
そんなことを考えていると、スタッフが、
「お久しぶりですね。案内所を使うこともあるんですね?」
といってきた。
「ああ、ええ、今日は会社の飲み会があったもので、一次会で終わってから、フラッと寄ったというところですね」
という。
すると、
「じゃあ、今日はほろ酔いということで?」
と聞くので、
「いえいえ、元々下戸なので、最初の一杯だけですよ、もう酔いも覚めてます」
というと、
「そのようですね」
といって笑顔を見せていた。
自分は、こういうスタッフとの会話も好きだった。
特に、待合室などで、時間を潰すのも、最近は結構楽しくなっていた。
というのは、ここ三年くらい前から、
「趣味で小説を書く」
ということを始めたので、いつもノートパソコンを持ち歩いている。そこで、待合室の広いところでは、パソコンを広げて、作業をすることができるのがありがたく、常連になる店の条件として、
「待合室が広く、そこで作業ができるところ」
というのが、優先順位では高いところにあるのだった。
この日は、ほとんど待つこともないだろうから、パソコンを広げる必要もない。そして、店を決める目安として、もう一つあるのが、
「スタッフの手際のいいところ」
というのがある、
店によっては、
「ネットで予約をしていても、受付から、お部屋へのご案内」
ということで、待合室に居合わせた順番ということで、下手をすれば。30分近く待たされるところもあるのだ。
そういうところは、意外と待合室も狭く、作業もできない。
ただ、こういうお店の特徴として、
「案内が遅れるということで、仕方がない」
ということは往々にしてあるのだ。
というのは、
「通路で、客同士」
あるいは。
「女の子と、客」
というのが鉢合うということは、正直気まずいものである。
というのは、
「いつも入っている子と違って、今日は別の子」
ということで、
「常連さんが、他の客に入った」
ということになり、お互いに気まずくなり、
「本指名客が一人減った」
ということもありえるだろう。
しかし、実際には、もっと大きな問題があった。
というのは、こういうお店で一番気を付けなければいけないのは、
「身バレ」
ということであった、
もしも、客が、女の子の知り合いだったり、身内の人間だったりすれば、
「気まずい」
というだけでは済まされない。
下手をすれば、父親が客だったりすると、自分もそういうお店に来ているにも関わらず、父親の権威を振りかざし、
「お前は何をしている」
ということで、店を辞めさせられることになったり、店で騒がれて、警察沙汰にでもなると、店としては、大変なことである。
ということで店側も身バレ防止のために、店の待合室に防犯カメラがあり、女の子を会う前に、
「女の子に確認させる」
ということになるだろう。
そこまでしているのに、もし、通路で出合い頭に他の客と顔が合ってしまい、
「その人が、実は肉親だった」
などという事態になれば、手の打ちようがないということになる。
だということであれば、最初から、合わないように工夫するしかない。
そうなると、
「自分の相手をしてくれる女の子以外とは、店の中では絶対に逢うことがないようにしないといけない」
ということになると、交通整理が必要で、店の中を、
「一方通行にする」
ということになる。
そうなると、
「他の客が終われば、店から出るまでは、他の客を案内しない」
ということになったり、案内の間、少しの時間を持つということも当たり前となるのだ。
つまり、客が5人待合室にいれば、一人3分のタイムラグがあったとしても、15分ということになる。そこに、変える客が倍だと考えると。30分というのもしょうがないということになるだろう。
それが、
「やむを得ない理由」
ということであった。
だが、さすがに、最初から予約を入れているのに、30分待ちというのはあんまりだ。
待合室が広くて、作業ができるのであればいいが、どうでなければ、
「時間の無駄でしかない」
どういう意味で、
「女の子」
という優先順位を別にすれば、店を選択する時の優先順位は、
「待合室の広さ」
と、
「待ち時間」
ということになるのだ。
もちろん、スタッフの対応ということも、当然であるが、それ以外にも細かいところはあったりする。
そのあたりの情報は、口コミなどを参考にするというのもいいだろうし、一度行った店なら、自分で把握しておくのも重要である。
スタッフの質という意味では、優先順位は低いかも知れない。
スタッフの場合は、結構入れ替わりが激しいという店も多いだろうから、それを考えると、
「優先順位が低いというのも無理もないことだ」
といえるだろう。
今回、案内所からやってきた店は、ちょうど前回最後に来たところで、約三カ月ぶりくらいであったが、自分には、
「まるで、昨日来たような気がする」
というくらいだった。
女の子も、三カ月前の子で、相手もしっかりと覚えていてくれた。
「久しぶりね」
と言われたが、まさにその通りで、こちらも、
「うん、久しぶりだね」
とはいったが、気分は昨日のこと、いつもよりも安心感に満ちた笑顔だったことだろう。
ちょっとぽっちゃり系の女の子で、自分は、
「小柄で、ちょっとだけぽっちゃり」
の女の子が好きだった。
まさに理想といってもいい。
その子は、前の時、初めてだったが、フリーで入ったわけではなく、予約してのことだったので、相手も喜んでくれていた。
「また近いうちに来るね」
といっておいたので、こんな形で会うことになると、少し苦笑いをしてしまうところであった。
もっとも、今日来なくても、来月くらいには来ようと思っていたので、一か月早まっただけだった。
彼女は、前に話したことを覚えていてくれたようで、
「小説の方、進んでますか?」
と声を掛けてくれた。
「覚えてくれていたんだね?」
ということが嬉しくて、余計に、
「こんな形になってしまった」
ということに対して、少し申し訳ないという気持ちが大きかったのだ。
それを分かっているのかいないのか、彼女は、そそくさと用意をしていた。用意をしながら、話を振ってくれるというのが、彼女のやり方なのだろう。
女の子によっては、お話をする時は、ベッドに座って、身体を密着させるようにしてくる女の子が大半だが、用意をしながらという女の子もいる。
そういう子は、プレイを先にして、最後のまったりとした時間を楽しむというプレイスタイルだという人が多いようで、
「自分もそっちの方が意外といいかも?」
と思うようになっていた。
最初は、
「まるで時間を図っているかのようで嫌だな」
と思っていたが、それでも、気分を紛らわせてくれる気持ちもありがたかった、
それを思えば、趣味を覚えてくれていただけで、感動するくらいになったのであった。
それは、
「今日は最初から来るというつもりではなかった」
ということからなのかも知れない。
今までにも何度か、、
「繁華街に出かけた時、帰りに寄ってみよう」
と思ってくることもあった。
そのほとんどは、
「あくまでもついで」
ということでその日は、朝から予約をして出かけてくるというのとは別もので、
「自分の中での、風俗通いの回数に加えない」
ということが多かった。
もっといえば、
「急に思い立ってくることになったのは、それだけ、気分の高揚というものを楽しみたい」
ということが一番だということであった。
だから、実際に部屋で女の子と出会うところまでが、気分の高揚というものであり、予約してからくるのと、気分的に新鮮になれるということであった。
確かに予約をしてからくるのであれば、そこまでの興奮というのはないだろう。
もちろん、部屋に入ってからの会話を含めた一連のプレイに変わりはないので、そこから先は。
「いつもと一緒」
ということである。
だから、
「帰りには、気持的にはいつもと一緒」
ということになり、それでも、回数に加えないのは、それだけ、
「サービスというものが、実際に味わった気分の高揚に比べれば、アッサリしたものだった」
ということになるということであろう。
「嫌だ」
という感覚はないが、
「味気ない」
ということになるということなのであった。
自分にとって、今回の
「出会い」
は、終わってみれば、いつもと一緒だということであるが、やはり、
「回数に加えるということをしたくない」
と感じるのであった。
実際に、前と同じ対応で、
「また指名したい」
と思ったのは変わりないことだった。
ただ、この一回を加えてしまうと、自分の中で、
「飽きが早くくる」
という錯覚に見舞われそうで、それが嫌だったのだ。
今までの、風俗遊びの中で、
「いくら気に入った女の子であっても、何度かご一緒してもらえば、何度目かには飽きる」
ということになるのは分かっていた。
「平均して、3回くらいで、長くても、5回」
というところであろうか。
確かに
「飽きがこない」
というのは無理があるかも知れない。
しかし考えたのは、
「もし、自分が結婚したとして、結婚相手に飽きてしまうと、どうなるんだ?」
という不安があったからだ。
「飽きが来る」
ということを身体が覚えてしまうと、
「その体質が抜けなくなり、結婚した以上、ずっと寄り添う」
と思った時、
「飽きた状態でどうやって持たせればいいのか?」
と考えると、
「離婚するか?」
あるいは、
「不倫に走るか?」
ということで、どちらにしても、
「結婚前から考えることではない」
ということになるであろう。
それを思うと、
「風俗の女の子を本指名するのはいいが、できることなら、3回までにしておこう」
と考えるようになったのだ。
ただ、本指名を
「続ける」
ということをやめようというだけで、
「まったくもうその子を指名しない」
というわけではない。
「飽きる前に、少し離れる」
ということである。
そもそも自分は、
「すぐに飽きが来る」
というよりも、
「飽きるまで楽しむ」
というタイプだった。
好きな食べ物にしてもそうだ。
「飽きるまで毎日のように食べて、そこまでくると、もう見たくない」
というところまで行くのだ。
それが、自分の性格であり
「食べ物であれば、それでもいいが、女の子ということになると、それでは嫌だ」
と思うのだった。
それが、
「結婚」
ということになると話も変わってきて、
「飽きるまで」
というのは、タブーということになるであろう。
結婚したことがないので、よくは分からないが、学生時代まで結構すると、
「人生の墓場だ」
とよく言われるが、それも、
「ウソではないか?」
ということであったり、
「大げさだ」
と思っていたのであった。
しかし、社会に出て、人と一緒にいると、学生時代に比べて、
「何か飽きっぽくなった」
と感じるようになった。
それは何が原因なのかというと
「毎日に変化がない」
ということであった。
学生時代も確かに変化はそんなにあったわけではないが、毎日同じリズムということもなかった。
会社に勤めるようになってから、毎日が、
「ほぼ同じ周期」
ということであった。
もちろん、年末から正月明けに掛けての、
「繁忙期から、閑散期に向かう」
ということで、同じ周期ということもないが、屁理屈でいえば、
「平均すれば、いつものペース」
ということで、正月明けが終わってみれば、疲れ方とかは、普段と変わらない。
つまりは、
「その時々で違うものだ」
ということになるのであった。
そう考えると、
「毎日同じペースというのは、飽きを感じさせるもの」
と考えると、
「夫婦生活も、それなりに、いろいろあった方がいいということか?」
とも考えられるが、それは
「願い下げだ」
と感じるのだ。
やはり、人間、
「平和で、何もないのが一番であり、自分がやりたいと思うこと」
そして、
「生きがいだと思うことを見つけて、それにまい進する」
ということが一番なのであろう。
それを考えると、
「結婚生活というものに限らず、暮らしていく中で、何が自分にとって大切なことなのか?」
ということを、自分で感じ、それを別の考えに押し付けようとする人がいれば、それを排除する形でいないと、
「ストレスばかりが溜まってしまう」
ということになるだろう。
「合わない人間とは、どこまで行っても、交わることのない平行線」
ということで、それは、
「夫婦間」
であったり、
「親子」
であっても、同じであろう。
特に親子ともなれば、育った世代が違うのだ。
最初は歩み寄りがあったとしても、その確執が大きいのは当たり前のことで、それを、誰もいい悪いという判断で持っていくことはできないだろう。
それを考えると、
「人に対して、考えを押し付ける」
ということは、
「反発も呼ぶ」
ということで、一番まわりに被害を与えることになり、二次災害というものを生むので、気を付けなければいけないということであろう。
お風呂屋さんに来るのは、もちろん、
「女の子に癒されたい」
という気持ちもあった。
最初は言い訳のように、
「小説を書き始めたので、風俗業界のことを知って、それをネタに書ければいいかな?」
ともいっていた。
しかし、最初の頃は、
「さすがに、風俗を小説に書くというのは、何か恥ずかしい」
と思っていた。
どうしても、
「官能小説を書いているわけではないのに、そういう業界を舞台にするというのは、自分では不本意だ」
と思っていたのだ。
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