第10話



「君が就職活動を始めたら、うちに就職するようにさりげなく誘導した」


「さりげなくって、どうやって……」


「通学中の君の横で、さくらを使ってうちの良い評判を会話させた。君がよく見るサイトのネット広告を増やして、君がよく行くお店にポスターを貼らせた」


 なんかやってることがものすごく回りくどい。御曹司って、もっとバーンと派手になんかやるものじゃないのかな。地味で回りくどくて執念深い……。


「君と入社式で再会したときには、歓喜のあまりプロポーズしてしまった」


「冗談だったんじゃ……」


「冗談にされて、俺は傷ついたよ」

 彼の目がギラッと光る。


 私は怯んだ。

 冗談にしたのは私じゃないのに。


「研修が終わったらすぐに秘書課に配属させたよ」

 碧斗さんが言う。

 私は驚いた。


「副社長の専属になったのは……」

「俺の指示だ」


「まさか、転職に失敗し続けたのも……」

「俺が手を回した」


 そんな。


「君の趣味を聞き出し、君の好きな本を読み、君の好みを研究した。君が楽しそうに話をしてくれるから、俺も楽しかったよ」


 私は唖然とした。


「毎日、君をこっそりと送ったよ。無防備な姿が心配でたまらなかった」


 ん?

 私はひっかかる。

 つまり、あとをつけてたってこと?


「私が轢かれかけたときにそばにいたのは偶然じゃないってこと?」

「そうだよ」


 彼は照れたようにうつむいて肯定する。

 ここ、照れるところ!?


「俺が真剣に口説いてる間、君は全部冗談にしてしまった。俺が傷つかないとでも?」


「そ、それは……」

 私は言い淀む。


「俺への愛の損害賠償、これからもたっぷりしてもらうからね」

 私はもうなにも言えなかった。


 ニコッと笑った彼の目が、怪しく光っていた。




* 終 *

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副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜 またたびやま銀猫 @matatabiyama-ginneko

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