第2話




 副社長室に入ってすぐ左側の机が私のデスクだ。


 部屋には副社長のデスクのほか、応接セットもある。


 グレーの高級感あふれる絨毯が敷かれ、さりげなく観葉植物が置かれている。


 今日は副社長の誕生日だ。


 夕方までのスケジュールはびっしりだ。


 夜はたいてい会食の予定なのに、今日だけは空白だった。そのように要望されて空けておいたのだけど。


 昼過ぎ、人間国宝の滝川悠全たきがわゆうぜんさんから大きな宅配が届いた。


「副社長、贈り物が届きました」

「ありがとう。しかしいつになったら君は俺を碧斗と呼んでくれるのかな」


「そんなことできません」

 私は笑顔で返す。


 もう何回このやりとりをしたかわからない。はじめのうちこそ慌てたが、もはや挨拶みたいになっている。


「今、手が離せない。かわりに開けてくれ」

「かしこまりました」


 開封すると、中には大きな壺が入っていた。高さは五十センチくらいはあるだろうか。重くて持ち上げるのが大変だ。


「なんだった?」

 一段落したらしい副社長が覗きにくる。


「立派な壺です」

「大きいな」

 副社長は感心したようにつぶやいた。


「今日届くとは聞いていたんだ。台を用意しておいたから、載せてくれ」

 副社長は入口付近を指差した。

 朝、男性社員が持ってきていた台だった。


「かしこまりました」


 このためだったのか、と納得しながら私はその壺を置く。重くて大変だった。いつもなら重いものは彼がかわってくれるのに、今日だけは違った。


 台は腰ほどの高さがあるが、面が小さくて、大きな壺を載せるとバランスが悪かった。


「少し小さいようですね。すぐに新しい台を手配します」

 壺を下ろそうとすると、彼はそれを止めた。


「しばらくはこれでいい」

「では、せめて場所を異動させます」

 入口付近では人の出入りの際に壺を落としてしまうかもしれない。


「いや、ここがいい」

 彼は満足そうにそう言った。


 私はいつでも新しい飾り台を注文できるように調べておかないと、と思った。

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